留学生日記19~夢中になった舞台1~ | パリと音楽と大学と

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パリにて声楽、シャンソンを指導。パリの音楽学校在学中より、フランス各地・ヨーロッパで様々なコンサートを経験。フランス国家公認声楽講師資格。アラフィフの物語を振り返るつもりです。

もともと私はフレンチ・バロックを勉強したかった。バロックと言えばバッハやヘンデルが有名だけれど、フランスにもラモー、リュリといった作曲家がちゃんといたのだ。優れた美しい作品が数多く残されているが、なぜか、日本では手に入りにくく、焦っていた。


私が来た1992年当時のパリで喜んだのは、まだちゃんとバロックが流行っていて、バロック・オペラが多く見られることだった。当時はさらに「バロック当時のように上演する」試みも多かったように思う。つまり、衣装も、装置も、バラヴェルサイユ風の時代の再現を試みる。なぜヴェルサイユかというと、これは上記の作曲家たちが、ルイ14世のもとに仕事をしていたから。演出家によっては”当時のように”かつらと白塗り”を使った人もいたらしい。


そんな中で、印象に残った2作品は、逆に、時代には全然関係ない斬新な演出であった。ひとつは日本へも通っている”レザール・フロリサン”のラモー作曲”レザンドギャラント”(日本語だと言いにくいなあ)「印度の雅な国々」である。(今も、20年ほど前の古い録音が出回っているかもしれない。)もうひとつは、オルランドだったか、ロランだったか、アルチーナだったか、ああ「アルミード」だった。こちらはリュリの作品である。(ギリシャ神話をもとに多くのオペラが作られた。人名が、なにかと多いのだ。)


レザンド・・・は、「エキゾチックな国々」が描かれている。印度とか、アステカとか、そもそも台本自体が「ほんと?」と言う感じ。

このときの演出家、アルフレッド・アリアスだったっけ、水着のお姉さんを登場させたり、香水をまいたり、ロックロールな王子様をやらせちゃったりで、私がみたときには再演であったにもかかわらず、やはりそれなりに大騒動っていうところ。


私はこのオペラがとても気に入って、何度もオペラコミックへ見に通った。普通の席も安い席も満席だと言うので、劇場の前で「券をゆずってください」と書いた紙を持って、誰かが声をかけてくれるのを待っていた。これで、数回入場することができた。ただし、い席だったので、一番上の階。日本と違って演出には大変奥行きがあるし(舞台幅とおなじくらいあると思ってよい)高さもある演出だったので、半分ぐらいしか見えない。体をねじまげてみていた。


舞台には左右にわたるベランダがしつらえてあった。そこで私がみたものは、男とも女ともいえぬ、黒装束の長髪のひとであった。その彼があまりに美しく、実はそれでついつい通ってしまったのだ。(演奏もよかったけど)フィリップという名前の彼のポジションは、「パントマイム」であったが、ここの合唱メンバーでもあるということがわかった。あんな素敵なマイムの才能があるのに、歌えるとは、むむ!?手持ちのCDの合唱メンバーを見ていくと、きちんと一人一人の名前が載っているので、それで同人物だとわかったのだ。


カラダもしなやかに、長い髪を書き上げる動作も優雅であった。どたばた演出に近くもある場面の上で、私にとって一番華をかもし出していたのは、男とも女ともつかぬ彼であった。漫画の主人公に恋するように、毎晩私は彼に見とれていた。


最後の上演となった晩、黄色いチューリップをもって(お金ないから一本だけ)楽屋口で、私は彼を待った。サインをもらって、住所ももらって(だからどうするつもりだったのか)ついでに彼が録音している別のジャンルのCDも教えてもらった。そして、お礼にほっぺのビズもしてもらって、呆然と見送ったのでした。


何回も楽しく舞台を見て、それにビズは嬉しかったのに・・・

ああ、この舞台は終わってしまったのだ・・・冬を越す楽しみがなくなってしまった。