娘にキレなくなったお父さんと、裾にしがみつく猫の話
セルフリセットスキルのエチュードを、9ヶ月ほど続けてくださっている、あるお父さんから、うれしいご報告をいただきました。ある日、奥さんからこんなことを言われたそうです。「エチュードを始めてから、娘にキレることがなくなったね」ご本人としては、少し意外だったようです。というのも、自分ではこれまでも「キレている」という自覚はあまりなかったから。怒鳴っているつもりはない。感情をぶつけているつもりもない。自分では、ちゃんと抑えているつもりだった。でも、奥さんから見ると、どうやら口調や声のトーンに、すでに「キレている感じ」が出ていたらしいのです。これは、親子の間ではとてもよく起きることだと思います。自分の中では、まだ大丈夫だと思っている。ちゃんと我慢しているつもりでいる。でも実際には、体の緊張や、声の硬さや、言葉の間の詰まり方や、表情や態度に、もう反応は現れている。そして、繊細な子どもは、そこをとても敏感に感じ取ります。言葉そのものより先に、声のトーンを受け取る。表情を受け取る。空気を受け取る。こちらの内側にある、見えない圧のようなものを感じ取る。だから、親としては「そんなに怒っていない」と思っていても、子どもの側には「怖い」「責められている」「機嫌が悪い」と伝わってしまうことがあります。このお父さんの娘さんも、とても感じやすいお子さんです。だからきっと、お父さんの中に起きた小さな反応を、敏感に受け取っていたのだと思います。そして、お父さん自身もまた、娘さんの反応に反応する。子どもが不安定になる。それを見て、親の中にも何かが反応する。その親の反応を、子どもがまた感じ取る。こうして親子の間では、お互いの神経が、お互いのムードに反応し合うようなことが起きます。どちらが悪い、という話ではありません。ただ、人と人が近くで暮らしていると特に親子のように関係が近い場合には、そういうことが本当に自然に起きるのです。だからこそ、親の側にほんの少し「間」が生まれることは、とても大きいのです。この方は、もうひとつ、とても印象的なことを書いてくださいました。仕事中に、飼っている猫が甘えて、ズボンの裾にしがみついてくることがあるそうです。以前なら、そこでイラッとして、思わず机を叩いてしまうようなこともあったそうです。仕事をしている。集中したい。早く終わらせたい。そこへ猫がやってきて、裾にしがみつく。とても小さなことです。でも、こういう小さな刺激こそ、日常の中にはたくさんあります。そして私たちは、大きな事件よりも、むしろこういう小さな刺激の積み重ねで、知らないうちに反応しています。そのたびに、体の中では小さな緊張が起きている。でも今は、その猫に対して、「もう仕方ないな」という感じで、諦めて相手をしてやるようになったそうです。私はこの話を読んで、これはとても大きな変化だなと思いました。猫に対して机を叩いてしまうこと。娘さんに対して、声のトーンがきつくなってしまうこと。一見、まったく別の出来事に見えます。でも、体の中では同じような「反応の癖」が起きていたのかもしれません。刺激が来る一瞬で反応する体が固まる声が硬くなる態度に出る。本人は「抑えている」と思っていても、もう体は反応している。でも、エチュードを続けていくことで、その反応が起きる前、あるいは起き始めた瞬間に、ほんの少し自分に戻れるようになってきたのだと思います。だから、猫に対しても「邪魔しないでくれ!」ではなく、「仕方ないな、少し相手をしてやるか」になった。娘さんに対して、無自覚に声のトーンがきつくなる前に、どこかで反応がほどけるようになった。そんな変化なのだと思います。ご本人は最後に、こんなふうに書いてくださいました。「これもエチュードのおかげか、あるいは加齢によるものか(笑)」もちろん、年齢を重ねて少し丸くなる、ということもあるかもしれません。でも私は、これはやっぱり、日々の小さな練習の積み重ねが大きいと思っています。なぜなら、ただ我慢しているだけなら、猫に対しても、娘さんに対しても、内側のイライラは残るからです。表面上は怒らないようにしていても、内側ではずっとイライラしている。言葉では抑えていても、体は怒っている。声のトーンには、それが出てしまう。そういうことは、よくあります。でも今回のご報告からは、無理に抑え込んでいる感じではなく、反応そのものが少し変わってきている感じが伝わってきました。怒らないように頑張る。キレないように我慢する。いい親でいようと力む。そういうことではなくて、反応する前に、ほんの少し自分に戻る。自分の体の中に、楽なところはあるかな、と戻ってくる。その小さな練習を続けていくと、日常の中の反応が、少しずつ変わっていきます。そして、その変化は、本人よりも先に、家族が気づくことがあります。「最近、キレなくなったね」「声の感じが変わったね」「前より怖くなくなったね」そう言われて初めて、自分でも、「あれ、そういえばそうかもしれない」と気づく。セルフリセットスキルの変化は、こういうふうに、静かに起きることが多いです。大きな決意をして、別人になるわけではありません。毎日の中で、ほんの少し止まる。ほんの少し、自分に戻る。ほんの少し、体の中の楽なところに気づく。その繰り返しが、やがて声のトーンを変え、態度を変え、家族の空気を変えていく。娘さんにキレなくなったお父さん。そして、甘えて裾にしがみついてくる猫に、机を叩かず、相手をしてあげられるようになったお父さん。どちらも、とても小さな日常の場面です。でも、こういうところにこそ、本当の変化は現れるのだと思います。怒らない人になる、というよりも。反応に飲み込まれる前に、自分に戻れる人になる。それは、家族にとっても、自分自身にとっても、とても大きな安心につながっていくのだと思います。メルマガ開設のご案内この度、SNSやブログでは書ききれない話などをお届けするため、メルマガを開設しました。【「凪」のほうへ】というタイトルです。最新情報などもお届けいたします。気になる方は、ぜひご登録を!メルマガ登録フォーム lacunowa.com