実質賃金は「あなたの賃金」ではない | 空き地のブログ

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未だに「実質賃金ガー」とやかましい熱心な人たちがいるようですが、そもそも賃金は景気の遅行指標と言われているので、賃金上昇が遅れていることそのものはあまり不思議なことではありません。むしろ、政府が「お願い」をして賃上げが早まったことの方が異例と言えるのかもしれません。仮に、「デフレ脱却という局面」に限ったとしても、それは昭和恐慌での実績を見ればいいわけで、

高橋是清財政とアベノミクスの違いを徹底比較(No.152)
h ttp://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-1b66.html
2014年3月7日(金)

(本文略)

AJER昭和恐慌インフレ率

AJER昭和恐慌賃金

インフレ率の変化率と賃金(実収賃金・定額賃金)の変化率を見比べれば分かるように、実質賃金の変化率は良くて±0%、基本的にはマイナスで推移していることが分かります。高橋蔵相の死後は戦争に突入していくので参考にはなりませんが、少なくとも、リフレ政策開始から4年という期間では実質賃金は上がってきていない、というのが過去の実績です。

現在のリフレ政策のアイデアはこの昭和恐慌を研究からもたらされているわけで、そう考えると、過去の実績に背いて「すぐに実質賃金が上がる」という現象が起きるはずだ起きるべきだ、という人はその根拠を示すべきでしょう。単に「国民の貧困化ガー」と騒いでいるだけでは何の対案にもなりません。



そもそもの話、「実質賃金」とは、

(実質賃金)=(労働者が受け取る賃金の総額)÷(賃金を受け取る労働者の数)÷(物価の基準年比)

ですので、“超単純に考えて”実質賃金が上昇するためには、①賃金の総額が増える②労働者の数が減る③物価が下がる、が起こればいいわけです。①を実現するには経済成長が、②を実現するにはリストラが、③を実現するにはデフレが、それぞれ起こればいい。

「経世済民()」の観念で見るならば、リストラ・デフレを選ぶ人はいないと思いますので、経済成長を目指せば良いことが分かります。もちろん、現実的には経済成長が順調に進めば労働者の数も増えるでしょうし、物価もインフレ気味になるでしょうから、そう単純に実質賃金が増えるとは限りません。しかしながら、リストラ・デフレをやっても経済が失速して経済成長できなければ実質賃金が増えるとは限りませんし、そもそもリストラ・デフレで達成される実質賃金上昇なんて「経世済民()」に反しますよね?

そして、重要なことは『実質賃金はあなたの賃金“ではない”』ということです。あくまでも、統計の結果として分かる「労働者ひとり当たりの賃金(をさらに物価で補正した値)」に過ぎないのです。

景気回復の初期段階では、比較的たくさんいる失業者が雇用されて労働者の数が増えると予想されます(そして、実際に起こっています)。しかし、失業から復帰したばかりの労働者が平均的な賃金以上の給料をいきなりもらえるとは考えづらい。すると、失業が改善していく過程においては平均の賃金は減ることが予想されます。これは既に働いているあなたの賃金が一切減らなくてもです。あなた自身の賃金は変わらない、でも平均の賃金は減っている。この状況であなた自身は自分が「貧しくなった」と感じるでしょうか?

また、ここでの「賃金」は名目なので、物価が上昇すれば当然「実質賃金」は下がるでしょう。しかし、経済学では「人々は貨幣の実質的な価値よりも名目額で物事を判断する傾向にある」ということが知られています(貨幣錯覚)。したがって、同じ「実質賃金の下落」であっても、その感じ方は名目賃金の変化の仕方によって異なるのです。

では現状に目を向けましょう。

最新の統計によれば(毎月勤労統計調査 全国調査 26年5月速報 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001119979 )、名目賃金(賃金指数)は前年比でマイナスからプラスに転換を果たしています。念のために言っておくと、別に労働者数が減って名目賃金が増えたわけではありません。むしろ、労働者数は増えています。労働者も増えていて名目賃金も上がっているわけですから、労働者全体が受け取る賃金の総額はそれら以上に上がっているという計算になります。

確かに実質賃金という指標は下がっていますが、失業が減り、国民が全体として受け取る賃金が増えている今の状況を本当に「国民が貧しくなっています」と言い切れるのでしょうか?

冒頭に述べたように、賃金は景気の遅行指標であり、過去(昭和恐慌)の実績から考えても、実質賃金が上向くには時間がかかると思われます。また、「貨幣錯覚」の作用もあり、名目賃金さえ維持もしくは上昇していれば人々の感覚としてはそれほど不幸を感じないはず。こういうことを踏まえずに「実質賃金を上げろ!」と主張したところで果たして意味があるのでしょうか?



今一度くり返しますが、『実質賃金はあなたの賃金“ではない”』のです。「日本国民のため」を思うのであれば、まずは失業(=賃金ゼロ)が減っている現状を評価すべきであり、労働者数の増加を上回る「労働者全体が受け取る賃金総額の増加」が起こっていることを認めるべきです。そうすれば自ずと実質賃金を上げるためにはリフレ政策を継続し、失業率をできるだけ自然失業率に近づけることが先決である、と分かるはずです。もしそうでなければ、失業者を取り残す、または今の労働者を蹴落とさないと実質賃金の上昇はあり得ないわけで、それは大元の「日本国民のために反することになります。

「実質賃金のみ」で国民の貧富を語っていいとしたら、それは一切失業がない、かつ、労働者間に賃金の差がないような世界でしかあり得ない。しかし、それは現実の日本の有り様ではない。したがって、そのような説明をすることはナンセンスなのです。「需要不足なのだからセイの法則は成り立たない」と切り捨てたのと同様に切り捨てられるべき言説です。