規制緩和が善か悪か、それ以前の問題? | 空き地のブログ

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面白いメンツによる討論(?)があったので紹介。

〈格安タクシー禁止〉「規制強化で脱デフレを」三橋貴明氏/「価格規制緩和こそ必要」高橋洋一氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140718/plc14071815300016-n1.htm
2014.7.18 15:30

(前略)
タクシー業界の過当競争を是正するため、事業者に強制的な値上げと台数削減を求めることができる通称「タクシー減車法」が今年1月に施行された。平成14 年の参入規制緩和を見直したもので、国土交通省による格安タクシー業者への値上げ勧告が始まっている。一方で格安業者が裁判所に強制値上げの差し止めを求 める動きも出てきた。行政による格安タクシー禁止の是非について、経済評論家の三橋貴明氏と、嘉悦大教授の高橋洋一氏に見解を聞いた。
(後略)
(引用ここまで)

タクシーの規制緩和は「ザ・規制緩和」と言っていいくらい「規制緩和の悪い見本」として紹介され、当時の小泉政権への批判の材料にされてきた(今もされている)事例と言えるでしょう。曰く、「デフレを加速させた」とか「タクシー運転手の生活を苦しくした」とか・・・。

しかしながら、ミクロ経済学における需要供給分析によれば、需要曲線と供給曲線の交わる均衡点で最も大きな効用が得られるわけで、「元々のタクシー料金の水準は果たして妥当だったのか?」「適正な市場競争ができていたのか?」という疑問が残ります。

さて、この記事では規制行政に対する考え方が正反対とも言えるふたりが双方の立場から意見を述べています。元記事では「三橋氏のコメント→高橋氏のコメント」となっており、両者が話す題目の順がバラバラなのですが、ここでは比較しやすいように似た論点どうしを並べて引用しつつ、コメントを付けていきたいと思います。

予め言っておくと、私の認識は高橋洋一氏寄りです。偏ったコメントを読みたくない、という方は引用記事をリンク先で先にお読みいただいた後に戻ってきてもらえればと思います。

※以下、三橋貴明氏のコメントを、高橋洋一氏のコメントをで表記します。
※「--」に続く文章は記者からの問いかけ

--今回の規制強化は評価できると

「働く人たちの所得が増えていくのが正しい政策のあり方で、そのためにある程度、料金が上がるのはやむを得ないだろう。デフレが長く続いた結果、日本人は『価格は下がるもの』と思っている人が多いが、基本的に価格は上がるもの。ここ20年、タクシー料金がほとんど変わっていないのは異常なことで、何でも『安ければいい』との考えはやめるべきだ」


--今回の規制強化をどう評価する

「まったく評価できない。本来は価格規制をなくすことが必要なのに反対のことをしている。国交省が少しでも安い運賃の業者を指導しているため訴訟も起こされているが、安いタクシーはほんの一部であり、市場経済において目くじらを立てる話ではない」


別に「安ければいい」と言っているわけではなく、市場メカニズムが作用した結果として決まる均衡価格が原則的には供給側・需要側のトータルで最大の効用を生み出せるという話であって、その均衡価格が現行より高いか安いかは問題ではない。

細かい話をすれば、「デフレ(物価下落)だから」と言って“あらゆる”モノ・サービスの価格が下がるワケではない。物価と価格は別物である。また、本来の市場競争をすれば今頃もっと安く提供されているべきモノ・サービスの価格が維持されたままなのであれば、その価格は「不当に高い」ということになる。「基本的に価格は上がるもの」だから価格が上がっていないのは異常であり、現行の価格は不当に安いのだ、というのはやや暴論ではかなろうか?

--大阪、福岡地裁では強制値上げの差し止めが認められ、初乗り500円といった格安タクシーが健在だ

「あまりに激しい価格競争は排除されるべきで、差し止めは支持できない。大阪市なら初乗り660円といった、国交省が定めた下限料金まで上げるべきだ。タクシー運転手が自分の労働できちんと家族を養えることが重要で、14年の規制緩和以降、運転手の所得が下がっていることは大問題だ。働く人の所得が上がらなければデフレ脱却はできない。タクシー料金が上がるということは消費者目線で『物価上昇は困る』と捉えられがちだが、働く運転手の所得を増やすことが消費増につながり国民生活全体としてプラスになると考える必要がある」


--大阪、福岡地裁では国による強制値上げの差し止めが認められた

「国側が負けて当たり前で、司法から『法律がひどいですよ』といわれているようなものだ。価格規制を緩和すれば、自然と業者も利用者も納得できる状況に落ち着いていくはずだった。しかし古い官僚主導型の規制に自公民各党が乗って、今回の規制強化策が導入されてしまった。経済学が分かっていないという点で国会議員の無知をさらけ出す結果となっている」

--格安タクシー業者は「営業の自由を侵害し憲法違反」と訴えた

「憲法違反とまでは言えないにしてもそれなりの説得力があるといえる。なぜ国が強制的に値上げするのか。タクシーの公共性といってもバスなどと違って根拠は弱く、だからこそ参入が自由化されてきた歴史がある」


--タクシーの公共性をどう考える

「ある程度は公共交通機関としての役割があり、国民の足を維持するという視点は必要だ。利益だけを考えればタクシーは東京に集中するだろう。地域住民の足を確保するために、場合によっては助成金のような仕組みも必要かもしれない。今回の規制強化で都市部の供給過剰な台数を削減するという点は評価できるが、供給不足の地方のことまで考えてほしかったと思う」


自由競争下では、各事業者は自律的に価格を決定して営業をし、各消費者はそれらの価格を比較して自律的に選択する。もし、価格が安すぎて家族を養えないならタクシー運転手を辞めて他の仕事に移ればいい(「他に仕事がなかったらどうする!?」と言う人がいるかもしれないが、国内の雇用を十分用意することは別の政策でやれることなので、規制緩和そのものの是非とは別の問題である)。タクシーの供給が需要を下回れば自然とサービスの価格は上がっていくので、その内また家族を養えるようになるだろう。別に価格が安くなっても需要が増えれば売上は必ずしも下がらないのだから、価格が下がる=運転手が食えなくなる、と言い切るのは短絡的ではないか?

また、タクシー事業者がどこにどれだけタクシーを供給するかについても、各事業者が自律的に考えればいい話で、国が価格をどうこうするのは甚だお節介だ。「タクシーが足りない」と言われる地域も結局は事業者が需要に見合う価格を考えて売上を予測した結果、「採算が合わない」と判断したからそうなっているのだろう。もし、価格規制によって予測される需要が小さくなり、そのために採算が合わなくなっているのだとしたら、供給不足の原因はまさに価格規制にあることになる。これでは本末転倒だ。

そして、ここでもタクシー料金という価格の上昇を「物価上昇」と混同している

--平成14年の参入緩和について

「経済状況によって規制緩和が正しいか正しくないかが決まるが、14年当時はデフレ下で需要不足であり、供給過剰状態のときにタクシーの参入規制を緩和したのはまずかった。結果的に料金は下がったが、競争が異様に激化してタクシー運転手の貧困化を招いてしまった。消費者としてはいい話かもしれないが、事業者側からの目線も必要だ。その点で今回、規制のあり方を見直すのは当然だといえる」

--業界への新規参入をうながした平成14年の規制緩和をどう評価する

「評価できるが、料金規制を残したのはまずかった。結果として新規参入が殺到することになってしまった。そもそも日本のタクシー料金は世界的にみても高すぎる。米国なら初乗りが日本円で250円くらいだ。運転手は特別な職業ではなく、誰にでも務まる仕事なので料金は安いのが当然だろう」

規制で価格を人為的に均衡点よりも引き上げたままにすると供給過剰が起こる、というのはまさに需要供給分析から得られる結論の通りであり、それが現実のタクシー業界でも起こった、という至って分かりやすい構図。

仮にデフレで供給過剰だったというのを是としても、本来起こるべき価格調整のメカニズムが働けば、タクシー業界に関しては需要と供給が釣り合う価格に落ち着くのだから、むしろデフレ状態(供給>需要)を緩和するのではないか?そうすると、却って規制がデフレを維持していた、と言えないこともない。まぁ、インフレデフレというマクロの話をタクシー業界の需給(及び価格)というミクロの話に流用する時点で“経済評論家”としてどうかと思うが。

--米国などと比べて日本のタクシー運賃は高いとされるが

「むしろいいことではないか。なぜ米国のタクシー運賃が安いかといえば、移民も含めた労働者を酷使しているからだ。工業製品と違って、サービス料金は国境を越えて同じ水準である必要はない。先日、視察に行ったスウェーデンでは初乗りが2千円程度だったが、それがむしろ正常といえるし、その運賃に文句をいうつもりもない。事業者側の視点を持つことが重要で、外国と比べたいのならスウェーデンと比較すべきだろう」


--需要と供給の関係を無視した高い料金設定が問題ということか

「その通りで、結果的に誰も満足できない状況になっている。料金が高くて食べていけると思うから多くの運転手が参入してきて、共倒れになるという悪い循環に陥っている。しかし価格規制を緩和して料金が下がれば、食べていけないと分かるから自然に参入は減ることになる。そうした市場メカニズムを活用すべきだ」

--厚生労働省によると、タクシー運転手の賃金は労働者平均の半分強だ

「運転手の賃金をどうするかは最低賃金法などで対応すべきであり、それは国交省ではなく厚労省の仕事だ。経済合理的に考えれば、特別な資格がなくてもできる仕事の対価として、低賃金はやむを得ないだろう。福岡では初乗り300円のタクシーがあるそうだが、それで事業が成立するのなら結構なことだ。安さに文句をつける必要はなく、無理に料金を統一しようとすれば、料金以外での競争が始まる。大阪の一部タクシーのように乗客に粗品を渡すなど、かつて問題になった“居酒屋タクシー”のような不健全なサービスが横行しかねない」


タクシー会社のぼったくり(割高料金)は肯定しておいて、消費者が割安で利用できる便益を批判するのでは公平性を欠いていると言える。明らかに事業者側に肩入れしている価格が安いのは運転手を酷使しているからだ!と言うが、別に今よりも高めの価格でも客が付くのならとっくにそうしているはずではないか?そして、そうした方が会社には利益が大きいはずではないか?だとしたらなぜそれをやらない?結局はその価格がほぼほぼ均衡価格であるということに他ならない。(ただし、アメリカ政府または州政府の規制でタクシー価格を安く抑えているというのならまた話は別)

また、異なる国で同じ水準である必要はない、と言いながら、比べるならスウェーデンと比較すべき、というのも全く根拠がない。スウェーデンと日本の共通点が何か、両国とアメリカの相違点は何かを述べるべき。

そもそも、大事なのは事業者には自由に価格やサービス内容を考えさせろ、という点であってどこ国の価格を国交省に下限として定めさせるのか、という話ではない。とにかく簡素でその分安いタクシーがあってもいいし、価格はそれなりだけども、ただ運搬するだけでない追加のサービスを用意するもよし。最終的には客のニーズにあったサービス具合と価格の組み合わせに落ち着く。ただし、それがどこに行き着くかは最後まで誰にも分からない。それが市場メカニズムというヤツだろう。



とまぁ、こんな感じで明らかに偏ったコメントを綴ってみましたが、どうでしょうか?w

三橋氏については、相変わらず「価格と物価」を混同しているのがなんだかなぁ、という印象です。そして、明らかな事業者側に偏った言説。消費者の効用を押さえてまで生産者の効用を優先するのは本当に“経済評論家”なのか?と首を傾げたくなります。