「ずっと昔にあきらめたパズルが不意に/あとから訳なく解けていくように……」とは岡村孝子作詞・作曲『あなたへ・・・』の一節ですが、わたしにも「ずっと昔にあきらめたパズル」がひとつあります。先日来、それがふっと「解け」始めているんですが、はたしてそれが俗世間での成功につながるかどうかは、今のところ未知数です。
この曲を聴きながら、曲のテーマとは関係があまりないことながら、自分のパズルのことを考える今のわたしです。
それはともかく、音楽としてのこの曲自体へのわたしの批評も書いておけば、以下のとおり。
あみん時代にすでに歌われていた曲だそうですが、ソロデビュー当時の岡村孝子さんの、限度まで引き絞られた弓のような緊張感と、それに伴う千切れそうな危うさと、緊張の連続に疲れてしまった徒労感やメランコリーといったものが、この曲にも集約されているように感じます。
自分を捨てて去った人をいかにあきらめきれなくても、追いすがる無様さを人に見られるのはプライドが許さないから、意地でも爽やかに手を振って相手の旅立ちを祝福してあげるんだ……といった気持ちが、ついに、力こぶを入れることなく、そのまま爽やかな歌へと結実したのが「夢をあきらめないで」でしょう。が、そこへ至る途上の数年間は、真に相手のことを思い遣っての祝福を捧げたいと、祈りにも似た気持ちで努めながらも、やはりそこに深い溜息を挿し挟まずにはいられなかったご自分を、正直に表現し続けておられたように思います。
なお、この曲を含めて岡村孝子さんの曲のいくつかに「夕日が溶けてゆく」西向きの海岸の情景が歌われていますが、かつて愛媛県に住んで、伊予市双海町の夕日ミュージアムや、高知県宿毛湾など、夕日の美しい海岸をしばしば訪れていたわたしは、それらの曲からあれらの懐かしい景色を思い出します。