イタリア語、石の上にも五十年 | MTFのAkemiのblog イタリア児童文学・皆既日食・足摺岬が好き

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私は、イタリア児童文学が大好きで、皆既日食も大好きで、足摺岬も大好きな、団塊の世代に属する元大学教員で、性別はMTFです。季節の話題、お買い物の話題、イタリア語の勉強のしかた、新しく見つけたイタリアの楽しい本の話題などを、気楽に書いていこうと思っています。

多くのかたが異口同音におっしゃいますが、人間、年齢を重ねるほど、月日の経つのが早いと感じるようになるものです。

 

特に、毎年今日の日付(4月17日)がめぐってくると思い出すのは、1969年の同月同日のこと。あれから早くも五十年が過ぎてしまいました。

 

あの日は、東京には珍しく、季節外れの雪が降り、若干の積雪もみたという日でした。ちゃんと東京管区気象台(およびその上部組織である気象庁)の記録に残っています。国による気象観測の記録が残されるようになった1876年以後でみて、東京の最終降雪日の遅さのトップは、この4月17日だそうです(ただし、単独首位ではなく、1967年、1969年、2010年の、三回にわたるタイ記録になっているようですが)。↓

 

 

 

その日の朝、わたしが下宿を出て学校に行く途上で何をしたかも、しっかり憶えています。野上素一著『イタリア語四週間』(大学書林)を、当時としては大枚の800円をはたいて買ったのです。

 

その何日か前に、ラジオでジリオラ・チンクェッティのヒット曲『雨(La pioggia)』を聴いて、いい歌だと思いました。たまたまその時、ラジオと連動しているテープレコーダーを録音モードで作動させていたため、そのテープを再生すると、何度でも聴き直すことができました。意味はまったくわからないものの、音だけでもなんとか真似してみたいと思い、テープを何度も再生しては紙の上に少しずつ、ローマ字とも発音符号ともつかない自己流の書き方でその音を書き取ってみました(たとえば la pioggia を la p〝yu〟olcha などと――〝yu〟の部分はドイツ語風に u の上に点二つを載っけた特殊な文字で書いた――)。最初は何語で歌っているのかわからなかったのですが、母音の多さや、諸般の状況証拠からして、イタリア語らしいと、見当がつきました。

 

 

 

この、耳から先の巡り合いがあったからこそ、その雪の日の朝、小田急千歳船橋駅の駅前の書店で、当時としては珍しいイタリア語入門書である『イタリア語四週間』をみつけたとき、大枚をはたいてでも買う気になったのです(そのころ、日本語で書いてあるイタリア語入門書は、これ以外にほとんどありませんでした)。

 

 

 

電車に乗ってからも時間は有効に使いたかったわたしは、買ったばかりのその本をさっそく開いて、最初の「文字と発音」の単元から読み始めたのですが、しょっぱなの近くに「釘」を意味する「chiodo」という語があって、発音はカタカナ式で写すと「キオード」あるいは「キヨード」であることを、すぐに記憶しました。この語がなぜそんなに記憶しやすかったかというと、ちょうどわたしの視線が本のその場所にさしかかったときに、電車が経堂(きょうどう)駅に停車したからです!

 

あれからなんと五十年。途中に21年間のブランクがあったため、イタリア語を勉強した実質歳月は29年間ということになります。その29年間に、chiodo 以外のイタリア語の単語を一万語ぐらいは憶えましたけれど〔注〕、いまだに、少しむずかしい本は、つっかえては辞書を引き、またつっかえては辞書を引きのくりかえしで、読む速度は同じボリュームの日本語の本のせいぜい五分の一です。

 

しかし、開き直って考えれば、凡才には凡才にふさわしい生き方というのがあります。有名なことわざをもじって言えば「石の上にも五十年」です。

 

 

〔注〕ただしこれは「読んだときに意味がわかる」単語の数であり、自分のほうから、和伊辞典を引かないでも口をついて出てくるという単語は、それよりずっと少ないです。