久し振りに賃貸に関わったのですが、相変わらずというより、前よりも、借主から搾取する構造がひどくなっていますね。

 

以下に示す、賃貸借契約において借主負担となっている7つの慣行のうち、道理に合わないものはいくつあるでしょうか?

 

□ 礼金
□ 家賃1ヶ月分の仲介手数料
□ 家賃保証会社の保証費用
□ 安心入居サポート(24時間駆け付けサービス)の費用
□ 退去時クリーニング費用
□ 鍵交換費用
□ 更新時の仲介手数料(or事務手数料)

 

答えは、、、全部 です。

 

「道理に合わない」と書きましたが、上記7つの慣行は、賃貸借契約書でこちら(借主)が同意しているとサイン・押印をしているから、有効になっているものなのです。

 

1.礼金

賃貸借契約を締結する際、「礼金:賃料の1ヶ月分」等となっている物件が多いです。

 

「礼金」っておかしくないですか?
この名称も嫌いなのですが、なんで借りる側、お金を払う側が「お礼」をしないといけないのですか?
しかも、お礼を強要された上に、金額まで指定されるとは、、、
 
これは、昔、賃貸物件が少なかったころに出来上がった慣行が今に残っているものです。
まだ、更に腹立たしいのは、2000年代など、不動産市場が低迷していた頃は、「礼金ナシ」という物件の方が多かったくらいなんです。
このまま、このおかしな慣行がなくならないものかと思っていたら、不動産市場が上向くと、また復活しちゃうんですね。
今では、礼金ナシの物件の方が少ないですものね。
 
こんな慣行は、早くなくすべきだと思います。
 

2.家賃1ヶ月分の仲介手数料

賃貸借契約を仲介してくれた不動産業者に、「仲介手数料:賃料の1ヶ月分」を支払う、と契約書に明記されています。

 

宅建業法で定められている仲介手数料の上限は、借主と貸主(大家さん)からそれぞれ「賃料の0.5カ月分以内」と決められています。(消費税も加算されます)
 
では、なぜ、ほとんどの取引で「賃料の1月分」が取れるのかというと、『借主が承諾した』という前提があるからなのです。
 
そんな相談、事前にされたことはないですよね。
契約書にサインをすることが、『借主が承諾した』と見做されるということです。
 
何の相談もないのに、承諾したことが前提の項目が契約書に記載されている、これが不動産業界の“常識”です。
 
しかも、契約日の数日前に契約書や重要事項説明書のひな型を送ってくれる業者なんて珍しいですからね。
財閥系でも、事前に要求しないと、当日、いきなり契約書や重説を机の前に拡げて、これでいいですね、ってなるので、注意が必要です。

 

3.家賃保証会社の保証費用

最近は、連帯保証人を求められることは稀になり、その代わり、家賃保証会社と保証契約を締結することが前提となっています。
相場としては、初回手数料として賃料等の0.5ヶ月分~0.7ヶ月分、月々賃料等の1%or1,000円ほどでしょうか。

 

家賃保証とは、何でしょうか?
借主が家賃を滞納した場合に、保証会社が借主の家賃を立て替え払いしてくれる、という制度です。
※代わりに払ってくれる訳ではありません。厳しい取り立てがあります。
 
これは、大家さんのための制度ですよね。
家賃が入ってこないと困るのは大家さんなので、何を保証しているのかというと、大家さんの家賃収入を保証している訳です。
 
何故、大家さんの収入保証の保険料のようなものを、借主が支払うのでしょうか?
 
この制度、元々は連帯保証人を立てられない人向けのサービスでした。
身寄りがないとか外国人とか、保証人になってくれるほどの近しい人がいない場合、民間の賃貸物件を契約するのは困難でした。
 
なので、保証会社を利用することで、連帯保証人を立てる必要がなくなり、民間の賃貸物件に入居できるという“メリット”がありました。
 
この段階では、“連帯保証人”を立てることがスタンダードだったので、それができない人が自分でお金を払って、ある意味「連帯保証人代行サービス」として利用するものでした。
 
これが、いつの間にか、賃貸借契約の前提となってしまいました。
 
現在、東京都区部で賃貸物件を探すと、ほとんどが「保証会社必須」となっています。
これは借主側のニーズではありません。この10年ほどで「保証会社必須」が前提となりましたが、昔と比べて借主側のほとんどが連帯保証人を立てられなくなったという環境変化は起きていません。
 
では、なぜ「保証会社必須」が前提となったかというと、保証会社が仲介業者にキックバックを出すからです。
連帯保証人だと、キックバックもなければ、家賃を取りっぱぐれる可能性もありますが、保証会社を借主に利用させれば、キックバックが貰え、家賃も滞納した場合は立て替え払いしてくれるというメリットがあります。
そして、もう一つ、借主の審査を保証会社に丸投げできるので、業務の効率化にもなります。
 
つまり、仲介業者にとって、保証会社というのは、借主の審査もやってくれ、家賃の保証もしてくれ、キックバックもくれる、というメチャクチャいい相棒なのです。
 
クライアントである大家さんにも、家賃を取りっぱぐれる可能性が低くなります、と言えますし。
 
でも、上で触れたように、本来的には大家さんの収入保証なのだから、この制度を前提とするならば、費用は大家さんが負担するのが筋だと思います。
 

4.安心入居サポート(24時間駆け付けサービス)の費用

特に大手の仲介業者で契約すると、「〇〇クラブ」の会費やら、安心入居サポートの費用として、月々数百円が徴収されます。
これは、水漏れや排水詰まり等の生活トラブルに24時間対応してくれるというサービスです。

 

これは、徴収される物件としない物件が混在しています。
 
では、「〇〇クラブ」の会費やら、安心入居サポートの費用を徴収していない物件では、水漏れ等の生活トラブルが発生した場合、対応してくれないのでしょうか?
 
そんなことはありません。
大家さんや管理会社(以下、大家さん)が対応します。
 
今まで、「蛇口から水が漏れている!」といったトラブルが発生した場合、大家さんに連絡し、大家さんが業者を手配し、修理していたのです。
 
ということは、この「安心入居サポート」も大家さんの仕事を代行するサービスですよね。
 
賃貸物件において、借主が壊した等以外の生活トラブルについては、オーナー(大家さん)の責任で修理すべきなので、借主が費用を負担するというのは道理に合いません。
 

5.退去時クリーニング費用

東京都が「賃貸住宅紛争防止条例」を施行して以来、請求されるようになった費用です。
入居時に、既に退去時の清掃費用が指定されています。

 

昔から、賃貸借契約に関するトラブルで最も多かったのが「敷金返還」に関することでした。
そこで、東京都が「通常損耗や経年劣化に関しては、貸主の負担」であることを明確にしたのが、「賃貸住宅紛争防止条例」です。
※2020年に改正された民法でも、621条で「通常損耗や経年変化については賃借人が原状回復義務を負わない」と明記されました。
 
ただ、これには逃げ道も用意されています。
2.仲介手数料の部分でも触れましたが、借主が事前に承諾していれば、少しくらいなら高いクリーニング費用を徴収しても問題ないのです。
※あまりに高いと無効とされるので、ギリギリ高いところを各社攻めています。
 
クリーニングに関しても、本来は、通常生活してきた埃や汚れを落とす清掃でいい筈なのです。
次に借りる人に対して、プロを雇って行う徹底的な清掃は、次に借りる人を募集するための営業の一環なので、貸主(大家さん)の負担とするのが合理的です。
 
また、この退去時クリーニング費用を事前に決めることは副作用も生んでいます。
退去時に清掃をしない人が増えているのです。
 
「立つ鳥跡を濁さず」という日本人の美徳は、「どうせ清掃費用を取られるんだから、清掃するだけ無駄じゃん」という損得勘定の前では無力のようです。
 

6.鍵交換費用

文字通り、前の入居者が使っていた鍵を、違う鍵に交換する費用です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、鍵の取替えは「入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる」とされています。

 

これも、「借主が事前に承諾していれば」問題のない項目の一つです。
鍵の交換は、基本的にはやってもらわないと困りますよね。
ただ、その交換をする法的責任はどちらにあるかというと、グレーなのです。
物件管理上の問題なので、賃貸人(大家さん)が費用を負担するのが妥当と言いつつ、交換しなかった場合に、法的責任まで問われるとというと、ケースバイケースのようです。
 
鍵交換費用が借主負担にされていることについては、完全には納得できなくても、交換されないと困るので、仕方がないかと諦めている人も多いでしょう。
 
しかし、退去時にも「鍵交換費用」を請求してくる業者がいるので、注意が必要です。
 
以前、私も退去時に鍵交換費用を請求されまして、
「これ、おかしいだろう?」
と指摘したら、
「お客様が退去したらすぐに鍵を交換し、次の入居者が決まったら、再度鍵を交換するのです。お客様が退去した後にすぐに鍵を交換しないと、誰かが過去に紛失した鍵を使って侵入し、放火などをした場合、お客様の責任となりますが、いいですか?」
と言われたことがあります。
 
こんなバカな脅しに乗っちゃいかんですよ。
放火などの不法行為をした場合は、あくまでその犯人が追及されます。
共謀していない限り、過去に紛失した鍵を使って、わざわざ退去した後の空っぽの部屋に侵入し、放火をするといった、物好きな犯行の責任を問われることはないので、こんな脅しは突っぱねてください。
 
で、すぐに東京都に通報してください。こんなアホなこと言う不動産業者がいるんですが、って。
 

7.更新料(+更新時の仲介手数料or事務手数料)

2年契約の場合、2年ごとに契約更新として、その更新月に賃料の1ヶ月分を追加で支払うことになっている契約が多いです。

 

これも、「借主が事前に承諾していれば」問題のない項目の一つであり、納得がいかない項目の一つでもあります。
 
商売として考えたら、長く住んでもらえるのはありがたい話であり、お金を払っている方が、なんで契約の更新時に「礼金」と同じ性格のものを支払わないといけないのか。
 
これも、慣習と言えばそれまでなのですが、早くなくすべきものだと思っています。
 
更には、更新料だけでなく、その更新時に仲介手数料や事務手数料を徴収しようとする業者がいます。
仲介手数料、って、更新の際は仲介していないですよね?って突っ込みたくなります。
事務手数料も、更新にそんなに大きな手間はかかりません。
 
更新時の仲介手数料や事務手数料を取ろうとする業者は、借主を金づるとしか思っていないので、気を付けてください。
借主に帰責性のない不具合が生じて修理を頼んでも、費用を請求される、とか有り得るので。
 

【まとめ】結局、一番ダメなのは裁判所

ここまで長々と文章を読んでくださった方、どのようにお思いになられましたでしょうか。
 
お気付きの通り、「借主が事前に承諾していれば問題ない」という判例のせいで、全部借主負担となってしまっています。
 
裁判官は、官舎とかに住んでいるので、賃貸の実態をご存じないのでしょうか。
(決めつけは良くないですが、実態を知らなさすぎます)
 
賃貸で借主が選ぶ部屋は、それぞれ個性を持つ「一点もの」な訳です。
しかも、業者も大抵の場合決まっていて、条件に納得がいかなくても、その部屋に住むためには、不条理を呑むしかないのです。
 
以上、見てきたように、大家さんががめついというより、業者がせっせとバックマージンやら、差額を抜こうとプラスアルファの費用を上乗せしてくるのが更にムカつきます。
 
でも、我々、借りる側に「この特約は納得がいかないので吞めません」と突っぱねることはできないのです。だって、そんなこと言ったら「では、次の人~~」と、その物件を借りることを拒否されてしまうので。
 
この「事前に契約書に盛り込めば、どんな特約でもOK」という現状を是とするなら、業者はこれからも、少しずつ、自分たちの取り分が多くなるようなサービスを契約書に追加するようになりますよ。
 
裁判所は、この実態をもっと深刻に捉えて欲しいです。
借主保護」「消費者保護」というお題目がむなしいです。
 

「リースバック」制度を悪用した詐欺まがいの「押し買い」が横行しているそうです。

そして、これは、専門家なら予見できたことです。

 

 

なぜ、予見できたのかというと、日本では、不動産の価格が分からないからです。

 

「リースバック」の問題は、

●売却価格が適正か?

●賃料は適正か?

の2点に集約されます。

 

その他に、賃貸借契約内容(キャンセルの条件等)もありますが、ここでは「価格」と「賃料」に焦点を当てます。

 

業者の査定は当てにならない

業者の査定は、いつでも、その会社の都合が反映されます。

 

例えば「一括査定」サイトがありますが、あれは市場価値を出すものではなく、登録している業者がいくらで買い取るのかを競わせるに過ぎません。

業者買取価格は、市場価値の7割前後となるので、「一括査定」サイトを市場価格を調べるためのツールにはできません。

※出てきた見積もり価格の平均を0.7で割る、という方法はありますが。

 

ましてや、リースバックを持ち掛けてきた業者が、市場価値で査定する訳ないですよね?

もし、有名な会社がそんなことをする筈がない、なんて思っているのなら、それは大いなる幻想ですので。

 

そして、残念ながら、我が不動産鑑定士が関わっている公示価格や都道府県地価調査も、土地の価格のみの表示である上に、建物の評価はないので、中古住宅の市場価値を一般の方が調べる際には、あまり役に立つものではありません。

 

売却価格が適正かどうか、賃料が適正かどうか、を一般の方が把握するのは困難なのが日本の現状なのです。

 

不動産鑑定士の査定が必要

昨今、中古住宅の問題点をあぶり出すための「インスペクション」が推奨されています。

中古住宅の物理的な瑕疵等を第三者の目で検査するのが「インスペクター」なら、中古住宅の価格を第三者的な立場で査定するのが「不動産鑑定士」です。

 

業者の出してきた価格が適正な水準なのかどうか、セカンドオピニオンを求めるなら、不動産鑑定士にご用命ください。

 

結局、今回は宣伝になってしまいましたが、「リースバック」のように、価格や賃料が問題の多くを占める場合、不動産鑑定士を活用することを検討していただきたいものです。

 

中野区が「道路台帳現況平面図」の公開を始めました!

 

 

「なかのデータマップ」→「道路・公園」→「道路台帳現況平面図」

で、確認できます。

 

道路台帳をWEB上で確認できないのが中野区だけだった

現在、東京都区部の武蔵野台地エリアにあるマンションを勝手に「防災力評価」しているのですが、道路台帳をWEB上で公開していないのは中野区だけだったんです(※)。

 

(※)現在「防災力評価」をしているエリアの中では、です。
評価対象エリア:東京都区部が対象だが、東部の低地帯にある区を除外

 

なので、今までは、

「中野区は区道の幅員情報を公開していないので、詳細な幅員は不明ですが、、、」

と断り書きを入れていました。

 

道路台帳をWEB上で見ることができるメリット

そもそも、一般の方は道路台帳を調べようと思うこと自体がないと思います。

 

道路台帳というのは、自治体が調査した道路の状況で、幅員(道路の広さ)などは、これを見ないと分かりません。

勿論、現地に出向いて、メジャー等で計測すれば把握できますが、調査対象不動産が接面している部分だけでなく、もっと広範囲に幅員情報が知りたいときには道路台帳を調べる以外ありません。

 

なぜ、幅員情報を調べるのか?

 

接面道路の幅員が「4m未満」だった場合には、原則建物を建築することができません。

この辺を掘り下げると、すごく長くなるので、これだけに留めますが、道路というのは、そこに建物を建てられるか否かを左右するくらい重要なものなのです。

 

そして、調査対象不動産が接面している部分の道路幅員が4m以上あるなら安心だ、という訳ではなく、更に、その道路が広い道路に出るまでの経路も重要です。

 

上図は、ある区の道路台帳の一部を切り取ったものです。

例えば、このウグイス色の場所に土地があったとしましょう。

前面道路幅員は、4mありそうです。

 

ただ、左に行くとすぐ3.2mほどの幅員の箇所があり、右に行っても3.3mほどの幅員の箇所があります。

このように、前面道路の延長を見ることも非常に大事なのです。

3.2mの狭さや3.3mでクランクしているような箇所は、ポンプ車の通行が困難なため、万が一、火災が発生した場合に消火に時間が掛かる可能性があります。

救急車の到着にも時間が掛かるかもしれません。

 

道路幅員は、

建築に影響を与える

だけでなく、

家族の命を守る

ためにも重要な要素なのです。

 

私が、不動産鑑定士の修習をしていた頃の先生には、

「不動産は、道路に始まり、道路で終わる、といっていいくらい、道路は大事なんだ。」

と何度も言われました。

 

中野区が、試験公開とはいえ、WEB上で公開を始めてくれたことは、本当にありがたいです。

まだ試験公開で、区道の一部の公開にとどまっているので、早く全面公開に至ることを願っています。