とある日の事にございます。


お豆の奉公先はクリーニング屋さんにございます。


この時期は布団に毛布にカーペットがわんさか洗濯に出され、所狭しと床にまで(すのこが敷いてあります)置かれていますにございます。


一応、並べるルールがございます。


が。


大きさがまちまちなので、ルール通り並び切れない物もございます。


で。


取り敢えず。

取り敢えず。


と、置いている内にごちゃごちゃになってしまったにございます。


こうなると。


お客様が引き取りに来られた時が大変でございます。


なかなか見つからないのです。


そこで。


「探すの大変ですよ」

「極力、ルール通り並べる様にしましょうよ」


と、お豆は少々語気を荒く店長に提案しましたにございます。


と。


「そうなのよ」

「大変なのよ」


と、店長の返事は他人事の様にございます。


エッ?


何を隠そう。

ごちゃごちゃの犯人は、ほぼこの方なのでございます。


検品の際に伝票にチェックを入れるマーカーの色で誰が検品をしたのかわかるシステムになっております。


な、なのに。


お豆はこめかみ辺りのプチッと切れる感覚を感じました。

が。

グッと堪えましたにございます。


実は。


お豆は、店長のこの対応は予感しておりました。


少しずつ、わかって来ました。

そういう人なのでございます。


おっとり。

のんびり。

で。

ちょっと大雑把。

そして。

全く悪びれない。


で。


自分であちこちに置いたので覚えているのか、探すのが妙に早いのでございます。


お豆は言葉を返しませんでした。


言いたい事は沢山ありましたが。

感情のままに口を開けば、言ってはいけない事まで言ってしまいそうで。

お豆はグッと、堪えましたにございます。


「キレイに並べる余裕も無じゃない。ね➰」


店長が同意を求める様に言って来ましたにございます。


そう来たか!


「そうですね」


お豆は平坦に答えました。


店長のこの対応。


意図的なのか。

無意識なのか。


お豆には全くわかりません。


モヤモヤした思いを必死に飲み込んで、無理やりの笑顔を作るお豆でございました。


普段は、優しくて良い人なんですけどね➰。


トホホ。

とある日の事です。


娘さんが仕事から帰ると。


「洗濯機が動かなくなった」と神妙な顔で梅さんが言います。


「エッ」

「洗濯したの?」

「『しなくて良い』って言ったでしょ」と娘さん。


この日の朝。

娘さんが仕事に行こうとしていると。


「これ洗って置こうか」と梅さんが洗濯カゴ入れてあった、こたつカバーを洗濯機に入れようとしていました。


「明日洗うからそのままにしといて」

「お母さん、ひとりで洗濯出来ないでしょ」と娘さん。


洗濯機は2年程前に買い換えた物です。

その洗濯機に換えてから、梅さんは使い方(洗剤の量やどのボタンを押すか)が覚えられないので1人で洗濯機を使う事が出来ません。


なのに。


「洗濯くらい出来るわよ」と強気な梅さん。


梅さんの《出来るわよ》の強気な態度は何十年も前の《出来ていた》記憶に基づくものです。


《洗剤をする》も、かなり変化しています。

洗濯機は全自動になり。

洗剤は粉から液体に、更に濃縮タイプへ変わり、使用料もかなり少なくなっています。梅さんの思い込みのキャップ一杯では、多すぎます。


梅さんは本気で覚える気がありません。さらに、計量を面倒がります。もう梅さんには手が出せない世界になっているのです。


案の定。


梅さんは洗濯機の前でフリーズしています。


「そのままにしといて」と娘さんは仕事に行きました。


が。


梅さんは洗濯機を動かしてしまった様です。


で。


触らなくても良いボタンを押した様で、見事に止まっていました。


「私は、触って無い」と言い張る梅さん。


「そもそも『そのままに』って言ったよね」と語気が荒くなる娘さん。


「触って無い」ばかり言い続ける梅さん。


洗濯機の方は幸いに何事も無く。

洗濯物を洗い直してくれました。


何故。


古い記憶だけを頼りに、自信たっぷりに行動できるのか。


そして。


しなくても良いと言われた事をあえてするのか。


モヤモヤが増えるばかりの娘さんでした。


トホホ。

とある日の事です。


「お財布にお金入ってなかったわよ」

「お金立て替えて置いたから」

「財布が空っぽなんて恥ずかしい」


娘さんが仕事から帰るのを待っていたかの様に梅さんが言います。


梅さんはスーパーに買い物に行ったらしいのです。


数年前から、スーパーの買い物にはプリペードカードを使っています。

スーパーのプリペードカードを使う前は財布の中に1ヶ月分の生活費(現金)を入れてありましたが、カードに切り替えてからは現金は入れてありません。


梅さんは、それを忘れてしまった様です。


「カードにお金入ってるよ」

「カードで支払いすれば良かったのに」

娘さんが淡々と言います。


「カードで?」と梅さん。


カードで支払いが出来る事も忘れています。


うっかりと言う感じではありません。


すっぽり抜け落ちている感じです。


《カードにお金入ってます》


娘さんは梅さんが戸惑わない様、カードにメモを付けました。


が。


「みっともない」と梅さんがメモを捨ててしまいました。


そして。


またまた。


「お金が入って無かった」と言うのです。


困ったものです。


梅さんの《すっぽり抜け落ち》は時々、何事も無かった様に回復したりします。


そして。


出来なくなっていた事を忘れています。


「失礼ね」

「出来て当たり前でしょ」と梅さん。


知恵を絞ってあれこれしている娘さんの努力も「失礼な」で片付けようとします。


何とも。

何とも。

ややこしい。


『梅さんの娘を辞めれたらどんなに楽だろうなぁ➰』としみじみ思う娘さんでした。


トホホ。