とある日の事です。


「あら、この人若い!」


梅さんは再放送の朝ドラを見ていました。


40年程前のドラマです。


『そりゃ。若いよ』と娘さんはスルーしていました。


が。


梅さんの言っている事が何処か不自然です。

どうやら、梅さんはその俳優さんが若作りして若い役を演じていると思っている様です。


「これ、40年前のドラマだよ」と言う娘さんに。

「何で、40年前のドラマを今やれるの?」と梅さんが切れ気味に言います。

「再放送」と娘さん。

「再放送?」と理解して無さそうな梅さん。


いつの頃からか。


梅さんはテレビに映る映像の全てが今(なんなら生放送)だと思っている様で、ニュース番組の過去の資料映像も今起きている事だと思って見ている様です。


梅さんの中には、もう《録画》は存在しない様です。


そして。

何処か自分には全く無関係、無関心な《対岸の火事》を眺めている様子です。


昔むかし。

娘さんがまだ幼かった頃。

近所のおばあさんがテレビの中の火事のニュースを見て。

『飛び火して来る』と大騒ぎしたと言う話がありました。

「年寄りは、ね➰」と当時の梅さんは笑っていました。


月日は流れ。

梅さんは、そのおばあさんのお仲間入りをしてしまった様です。


そして。


「年寄りは、ね➰」と簡単に笑う事の出来ない娘さんがそこに居ました。


トホホ。

とある日の事です。


その日はゴミの日でした。


梅さんは妙にゴミ出しに燃えています。

率先して出しに行こうとします。


娘さんが推測するに。

近所の同年代のご婦人(腰が悪い様で杖を使っています)に「スッスッと歩いてらして、うらやましいわ」とでも言われてたのでしょう。


そのご婦人は娘さんに合うと必ず「お母さん、元気そうでうらやましいわ」とおっしゃっていますので。


さて。


ゴミ捨てに行った梅さんがなかなか戻りません。

娘さんが確認の為、玄関を開けると。

梅さんは鉢植えに水やりをしていました。

水やりは娘さんが早朝にしていました。


「朝、水やったよ」と、慌てて止める娘さん。


鉢植えは娘さんが大切に育てている植物たちです。


娘さんは梅さんに「水やりはしなくても良いよ」といつも言っています。


《水やりしないでください》とショウロにメモも貼ってあります。


が。


梅さんはすぐ忘れてしまいます。


そして。

鉢植えは小さいものばかりです。

梅さんの水やりは雑なので水の勢いで土が鉢からはみ出したり、固形肥料が飛び出したりします。

娘さんは、願わくば梅さんに触って欲しくありません。

勿論。

梅さんが善意でしている事は承知していますが。


「本当に水やったの」

「乾いてるわよ」

「やりかたが足りないんじゃないの」

梅さんが減らず口を叩きます。


「水やり過ぎると根が枯れるから」

「『水やりしなくて良いよ』って言ってるでしょ」

娘さんは外なので小さい声で言います。


「エッ」

「何?」

「聞こえない」

梅さんが顔を歪めて大きな声で言います。


娘さんは梅さんを引っ張って家の中へ入れました。


「何するの」

「みっともない事しないで」と梅さん。


「だから」

「水やりしないでって」

「何で、人の嫌がる事をするの」

「もう余計な事ばかりしないでよ」

娘さんは遂に切れてしまいました。


「はいはい」

「わかりましたよ」

梅さんがふてくされた返事をします。


梅さんは何故か。

娘さんが「しないで」と言う事をします。


そして。

娘さんを怒らせてしまいます。

が。

懲りずにまた繰り返します。


これは、今に始まった事ではありませんが。

だんだん頻度が増している様に思われます。


何故?

人が嫌がる事をあえて繰り返すのか。


そして。

全く悪気が無い様で反省している様子もありません。


娘さんには全く理解出来ません。


トホホ。


って言うか。


腹立つわ💢💢

とある日の事です。


その日。

娘さんは仕事が休みでした。


「お昼どうするの」


朝食が終わるや否や。

梅さんが娘さんに聞いて来ます。


「有るもの食べれば良いんじゃない」と娘さん。

「じゃ、ご飯炊こうか」と梅さん。


ご飯は炊飯器の中残っています。


「炊飯器の中にあるよ」と娘さん。

「いつの間に炊いたの」と梅さん。


休みの日朝に必ず交わされる会話。

この会話に娘さんはかなりの疲れを感じる様になっています。


お昼前になり。


娘さんがレトルトのハンバーグを温めていると。


「あっ。こんなのある」


梅さんは冷蔵庫から昨夜の(梅さんの)食べ残しを出しました。


その食べ残しは、キューりの酢の物の上にモヤシの野菜炒めがのせてあり、更にその上にホウレン草のお浸しが乗っています。


なぜか。

梅さんは食べ残しを一皿にまとめてしまいます。

娘さんが「気持ち悪いから止めて」と止めても「私が食べるんだから」と言う事を聞きません。


その残り物を梅さんは混ぜ混ぜしていました。


娘さんは梅さんが自分で食べるの為の作業だろうと無視していました。


と。


その混ぜ混ぜをふたつに分けようとし出しました👀‼


「何してるの」

「それ、お母さんの食べ残しでしょ」と思わず声を荒げ。

「私はご遠慮しますわ」と娘さん。

「食べ残し?」とキョトン顔で梅さん。

「自分の食べ残しを人に食べさせるの」と娘さん。

「食べ残しじゃ無いでしょ」と梅さん。


酢の物と野菜炒めが入っている事も、昨日食べ残した事も忘れています。


結局。


梅さんは、その《食べ残し混ぜ混ぜ》をお昼に食べませんでした。


で。


その日の夕飯時。


「これもあるよ」と梅さんがまたまた《食べ残し混ぜ混ぜ》を娘さんに勧めて来ました。


「要りません」

「それはお母さんのでしょ」と娘さん。


「私はもう食べないから」とさらっと梅さん。


自分の食べ残しを娘に食べさせる事に、何の抵抗も無い様です。

むしろ。

娘に美味しいものを譲っている気分でいる様です。


日に日に。

梅さんは間延びした様な、もやっとした感じがして来ています。


娘さんの頭の中に《劣化》と言う文字が過って行きました。


梅さんの《劣化》に回復(修復)はありえ無いでしょう。

進む一方です。


娘さんは母親の《劣化》と一対一で向き合って行かなければなりません。


『私の心は耐えられるのだろうか』


不安が過る娘さんでした。


トホホ。