孤独の楽しさ

夕方、部屋の窓を少し開ける。

外から、車の音が聞こえる。
誰かの話し声も聞こえる。

けれど、私はそのどちらにも参加しない。

テーブルの上には、温かいコーヒー。
隣には、読みかけの本。
そして、壁に立てかけた一本のギター。

「今日は、誰とも話さなくてもいいな」

そう思うと、不思議なくらい心が軽くなった。

若い頃は、ひとりでいることが寂しかった。
誰かに必要とされたい。
誰かと一緒にいたい。
そんなことばかり考えていた。

でも、長い年月を生きてきた今は少し違う。

ひとりだからこそ、好きな時間に起き、
好きな音楽を聴き、
好きなものを食べ、
思いついたことをぼんやり考える。

誰にも説明しなくていい。

窓の外が暗くなっていく。

私はギターを手に取った。

うまく弾けなくてもいい。
間違えても、誰も笑わない。

一つ、コードを鳴らす。

「ジャーン……」

小さな音が部屋に響く。

私は思わず笑った。

――孤独って、案外ぜいたくなのかもしれない。

誰もいない部屋で、
自分だけの時間を、自分だけのために使う。

寂しい夜もある。

けれど今夜は違う。

私はひとりでいるのではない。

私は、自分自身と一緒にいる。

そう思いながら、もう一度ギターを鳴らした。