日曜日に三谷幸喜さん演出の舞台「90ミニッツ」を観に行きました。
三谷幸喜生誕50周年記念作品のラストを飾る舞台。
昨年からの新作ラッシュの中、東京公演しかなかった「ベッジパードン」以外の
「ろくでなし啄木」と「国民の映画」に続いて生で観る事ができた。
西村雅彦さんと近藤芳正さん出演の二人芝居。
このお二人の舞台といえば「笑の大学」があまりにも有名。
「笑の大学」は鑑賞中笑いが止まらなかった。にも拘らず、最後は胸を打たれた。
あの感動を今一度と、期待に大きく胸を膨らませ鑑賞。
以下ネタバレあります
事前に笑いが少ないシリアスな劇と聞いていたが、テーマが思いの外重かった。
交通事故に合い病院に担ぎ込まれた重傷の9歳の少年。
手術をすればもちろん助かる状態ではあるが、
地域の慣わしで輸血を是とせず、
手術の承諾書に断固としてサインをしない父親(近藤芳正さん)と
父親に何とか承諾を貰おうと説得する医者(西村雅彦さん)との会話劇。
90分以内に少年に手術を施せば助かる。
この90分という時間が上演時間でもある。
それぞれがお互いの「倫理」をぶつけ合う。
父親は代々受け継がれた地域の風習こそが生きる支えであり、
これを覆すことは自分たちの存在意義が成り立たない事を主張する。
医者は生命を救う義務と使命感を持って、生命の大切さを説く、
という図式。
互いの主張をぶつけ合わせて、
お互いが葛藤し、苦悩する二人。
この二人の対比が見所。
しかしこれ、
観ている人のほとんどが父親には共感できないのではないかと…。
どれだけ父親が子供を救いたい、この上無く愛情を注いでいると言っても、
私は到底共感ができない。
宗教的なややこしい話になってしまうかもしれないが、
これもまた「倫理観」の違いと言い切ってしまえるものなのか。
私には単純に、医者としての使命感と人間としての倫理観を持ち合わせたドクターが、
不幸にも究極のヤカラに絡まれてしまった、可哀想な話にしか思えなかった。
ムラ社会の中での自己の体裁を守る為の父親の保身と、
助かるはずの少年が自分の病院で死なすのは嫌だと考える医者の罪悪感を
同列に「エゴだ!」と言い合うシーンがあるが、全くもって無理がある。
そして最終的に子供に生きて欲しいと切実に願う父親が、
「輸血してもいいから手術をして欲しい。しかしサインはしない。
病院が勝手に輸血したという事にして私たちは術後に病院を訴える。
本当に子供を助けたいと思うのならサインなしで手術できるはずだ。」と言い出す。
観ている方は明らかに父親に正義はないと思ってしまうのだが、
追いつめられた医者は
「自分はもうすぐ部長になれる。長年の夢だった場所にマイホームも手に入れられる。
だから裁判沙汰になって欲しくない。お願いだからサインをして欲しい」と
胸の内を吐露する。
そしてそれを糾弾する父親。
遂に少年が昏睡状態に陥り危篤状態になる。
最終的に折れるのはどちらか…が最後まで目が離せない。
三谷作らしい笑える演出も今回は終始抑えめ。
抑えめではあるが、この緊張感のあるシーンだからこそ
思わず吹きだしてしまう会話劇も随所にあり面白かった。
(肉食や輸血を否定する風習に対して牛乳はOKなのを突っ込むクダリが笑った)
開演最初から舞台真ん中に天井から地上に落ちる水の演出も良かった。
90分を表す砂時計的なものかと思ったら、少年が危篤状態になったらストップ。
そこで初めて、これは少年の心拍数(生命)を表していたのかと納得。
両氏の演技もやはり素晴らしく、とても楽しめました!