夢違 | 家具 通販 赤や 竹田のブログ

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恩田陸さんの「夢違 」を読みました。


夢違 恩田陸

恩田陸さんの小説はかなり久しぶり。
「黒と茶の幻想」までは出版される度に欠かさず読んでいたのですが、
それ以降はなんとなく「夜のピクニック」ぐらいしか読んでませんでした。

丁度、奈良のガイドブックを読んでいる最中に、
本屋で「夢違」というこのタイトルに惹かれて手に取った。

人の夢を映像として記録し、デジタル化できるというSF設定。
その記録した夢、「夢札」を解析する職業「夢判断」である主人公の浩章が、
事故死したはずの浩章の実の兄の婚約者、
かつて予知夢を見ることで世の中を騒がせた古藤結衣子の姿を目にする。
時同じくして各地の小学校で集団白昼夢事件が頻繁に発生する。
というあらすじ。

以下ネタバレも多々あり!

人の夢が可視化されることで世界はどうなるか?
夢か現かその境界線がよくわからなくなるという現象が、
それぞれの人の意識下で起こり、そして現実の世界でもそれが侵食していくと?

なんとも幻想的な物語。
夢か現か、その境界線わからない。
最近ではクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」で
描かれた映像表現が素晴らしかった。
この物語も押井守監督のアニメや実写映画によくある「アレ」な
雰囲気が至るところから醸し出されている。

序盤。
各地で起こる不可思議な集団白昼夢事件を追う場面が良い。
ホラー小説ではないはずなのに、禍々しさが全開で怖い。
小学生の夢に現れる得体のしれないものが、
実は八咫烏だったという発想がすごい。
確かに人のサイズで首の部分が人の顔をした八咫烏が現れる夢は悪夢以外何者でもない。
笑い飯のネタの「鳥人」をリアルで見たら、と想像する以上のインパクト。

後半、奈良を舞台に事件の核心に迫っていく。
奈良の情景描写が良い。
民家の中にあるならまちの飲食店の様子など雰囲気がでていて嬉しくなる。
奈良公園近くで起こる霧による車の大事故も身震いするほどリアル。
頭の中では映画「デッドコースター」の大惨事が脳内再生された。

夢と現実を曖昧にする現象として霧が現れるが、
この作中でも例えとして登場するのがキングの「ミスト」。
ある日現実と異界と繋がり、
霧の中にこの世のものとは思えない怪物が蠢くという
あの小説や映画のように、
可視化された夢へと誘う霧が現実世界を侵食していく。

序盤から登場する思わせぶりな謎の人物や、
夢の中で鳥の脚を植える表現など、
伏線ぽいものや謎が多々あったが、
最終的にはあまり大して触れられもせず、
静かにラストに向かう。

ラスト。
この物語のキーマンである古藤結衣子が法隆寺でも目撃された、
との伏線が合ったので、これしかないとは思っていたが、
やはり最後には法隆寺の「夢違観音」が登場。
今回この本のタイトルを見た時に最初に連想したのが、自分はこの仏像。
悪夢を見ても祈れば吉夢に変えてくれるというこの仏像の登場は
この物語のラストにはピッタリ。

途中、子供たちみんなが見る悪夢は古藤結衣子の夢らしい、
そして古藤結衣子の側に浩章らしき人物が居るというのが解ってからは、
これは全て浩章が見る夢の世界で、
設定もラストも映画「ジェイコブズ・ラダー」風?、
と予想したが全然違った。
落とし所が非常に難しい話だったと思うが、
よくわからない曖昧さを残しつつも、とても綺麗なラストで感心した。