大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(6)舞台芸術学科教授 細川俊之さん
2009.03.08 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,557字) 

 ◆感情を開放しよう

 米国で演劇を勉強していたとき、有名な演出家にこんなことをいわれました。「喜劇は自殺するより難しい」。6~7年前のことです。個人レッスンを受けるためニューヨークに滞在していたのですが、その言葉を今でも鮮明に覚えています。

 喜劇に限らず、みなさんが劇を演じるときは自殺するより難しいと考えてください。自殺というたとえは良くありませんが、よく覚えておいてください。のちのち、きっと役に立つはずです。

 最近の日本の喜劇、とくにテレビのバラエティー番組はつまらないと思いませんか?

 私はおもしろくないと感じています。理由は、お客さんや視聴者たちに伝えたい所作をやりすぎるからです。一歩踏み出したらお客さんたちが笑わないのに、そこを踏み出して表現しているのです。お客さんや視聴者に想像力を与えていないのです。余韻とか、間(ま)がないのです。だから、「劇というのは自殺より難しい」のです。みなさんはこうしたことがないよう注意してください。

  《細川さんの独特なしゃべり方、美声はいささかも衰えていない。クールな二枚目俳優として知られるが、硬軟自在の演技力も兼ね備えた実力派。それだけに近年の演劇界やテレビに物足りなさを感じ、チクリと批判する》

 では、発声練習をしましょう。「アハハハハ」「アアアアア」…。もっと腹の底から声を出してください。「アハハハハ」…。舞台に立つには声を鍛えなければなりません。体も鍛えてください。こうした鍛錬は普段から必要です。

  《舞台芸術学科は「演技演出」「ミュージカル」「舞踊」「舞台美術」「舞台音響効果」「舞台照明」の6コースからなる。細川さんは主に演技演出コースの1年生を対象に指導している。舞台をつくる力をつけてもらうために基礎をじっくり説明。ボイストレーニングは欠かせない》

 次は、ないものをさもあるように見せる訓練です。みなさんと私がキャッチボールをします。みなさんが投手、私が捕手。私にストライクを投げてみてください。学生であるみなさんが投手を演じるのは、自分とは異なる人の疑似体験ができ、想像力を養うことができます。

  《授業で使っている実習室はいきなりグラウンドに変わり、学生が一人ずつ野球ボールを持っているように仮定して投球する。捕手役の細川さんをめがけて思い思いのスタイルで投げる。細川さんが「ストライク」と力強く言い放ち、打者を三振に打ち取ったところで次の学生に投手役を交代する。これで身体表現を見るのだという》

 みなさんは想像力あふれる投球フォームを披露してくれました。ここには型にとらわれない、自分を開放する姿勢がありました。人にどう思われようと、自分が思うことを自由に表現できないと芝居はできません。

 私は他人に見られたい、見せたいという気持ちで芝居に打ち込んできました。芝居が好きだからでしょうが、演じる役になりきってきたのです。そのためには自分の開放、感情の開放が求められます。

 みなさんは今後、演技に対する本格的なトレーニングを積んで、世の中の喜怒哀楽を果敢に表現していってください。想像力や余韻を感じさせる喜劇、出しゃばらない演技の習得も必要です。そして、みなさんの演技で多くの人を魅了してください。

 (三宅統二)

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 【プロフィル】細川俊之(ほそかわ・としゆき)

 俳優。俳優座養成所を経て劇団文学座に在籍。木の実ナナと共演したミュージカル「ショーガール」は15年続いた。映画「女囚さそり 701号怨み節」「ラヂオの時間」のほか、テレビやラジオでも幅広く活躍。声優としてはアニメ「あしたのジョー」の力石徹役が有名。ゴールデンアロー大賞など受賞。平成16年4月から大阪芸大舞台芸術学科教授。

 撮影・前川純一郎

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(5)里中満智子さん
2009.03.01 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,716字) 

 □キャラクター造形学科長 里中満智子さん

 ◆自分の感性を大事に

 漫画って便利だなあって思うの。私が前に見た映画で、とある元貴族のおじさんが落ちぶれて、最後に唯一の友達の犬を抱いて鉄道に飛び込もうとするの。そしたら犬が「イヤイヤ」と暴れて死にきれず、「悪かった。もう死ぬなんて考えない。これからも一緒に生きよう」と犬に言うんだけど、犬が逃げてしまうのね。かわいそうな話だったんだけど、これ見て、映画って大変ねって思ったの。犬に演技指導はできないしね。漫画は、根気さえあればどんなシーンも描けるの。描いて描いて練習してください。

 《里中さんが学科長を務めるキャラクター造形学科は、魅力的なキャラクターをつくり、動かし、生かす基礎を学び、そこから学生それぞれの興味ある分野を研究する。里中さんは漫画を指導。「客観性をどう認識するかが大事。またそれ以上に大事なのが熱意です」と強調し、「私たち教える側の役割は、いかに新鮮な刺激を与え、いかに学生の可能性を確信を持って言うかです」と話す》

 画面づくりについて、永久に忘れてはいけないポイントは、とにかく見開きで構図を考えることです。右ページと左ページで同じ角度の顔、同じポーズ、同じカメラ視線…なんかがないかどうか。それから、吹き出しの大きさを考えることです。文字の大きさをそろえて、日本語を整理して改行も考えて、ぎりぎりの大きさに吹き出しを書かないようにしないとね。

 こんなこと考えるのはつまんなくて、決めポーズやいい顔を描くことに一生懸命になりたいでしょうけど、全体の画面として自然に見せるためには、絶対に忘れてはいけないんです。

 それから、キャラクターは、自分が好きな小道具だけでつくらないこと。自分の好きな小道具マイナス1、つまり、まゆ、目、鼻、口のうち何かひとつは好きでないデザインにする。この人は好きでない目に、この人は好きでない口に、というふうに描くと、どんどんキャラクターの描き分けができるようになります。

 《ここで、学生のひとりから漫画の構成力についての質問が出る。里中さんはシンデレラの話で「姉が2人出てくるけど、2人はいつも同じ反応。1人にするか、2人の性格や反応を変えた方が面白い構成になるのでは」などの例も挙げながら説明した》

 読んでいて、人間関係とか状況とかがストレスなく頭に入ってくれば、それはおおむね構成力があると思います。同じ役割の人物や同じような出来事といった無駄がないこと、つじつまがあうことや、無理なくドラマチックに展開されていることも必要ですね。

 ドラマチックっていうのは、のっぴきならない事態のことで、私だったら逃げ出したいわ、って思うくらいのことなの。こうなるんじゃないかってその通りになるのはつまんないのよ。

 よくあるじゃない。初恋もので、好きな彼がいるんだけど、友達同士で「今さら告白できないわ」って思っているときに、ライバルの女の子がでてきて、だいたいライバルの子ってブリっ子でね、主人公はボーイッシュなの。こうなると読者は分かり切っていて、最後にうまくいくっていうおきまりの展開なのね。

 例えば、彼が本当にその女の子を好きになっちゃうとか、女の子は主人公と近づくために彼に近づいた同性愛者だった、とかね。どっかで一度つくった話を壊してみる。そこからドラマって生まれるの。

 いろんな物語を読んだり映画を見たりして、面白いな、つまんないなって感じる気持ちがあればそこに到達できると思う。それで、人が面白いといったから面白いって思わなくてもいいんです。それがその人の個性ですから。自分の感性を大事にしてくださいね。

 (山口淳也)

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 【プロフィル】里中満智子(さとなか・まちこ)

 16歳のときに「ピアの肖像」で講談社新人漫画賞を受賞し、高校在学中にプロの漫画家となる。「あした輝く」「アリエスの乙女たち」「海のオーロラ」「あすなろ坂」「天上の虹」などヒット作は多数。日本漫画家協会常務理事なども務める。平成15年4月に大阪芸大キャラクター造形学科の教授となり、20年4月、学科長に就任した。

 撮影・前川純一郎

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(4)映像学科長 大森 一樹さん
2009.02.22 大阪朝刊 21頁 大阪総合 写有 (全1,663字) 

 ◆制約の中でどう表現

 最近の学生たちの傾向として、「自分が表現したいことを好きなようにやれるのが映画だ」と思っているようなんだけど、見てもらって初めて着地するっていうかなあ、そのことが抜けてしまっているような気がします。学生の作品を見ていると「だれが見るんや」っていうのがありますよ。

 自分の言いたいことを人が「それはそうやなあ」と思ってもらって初めて映画なんで、1人でしゃべりまくって「おまえら勝手に聞いとけ」みたいなことやっても、それは映画じゃないんですね。

 時間も、人が貴重な時間をとってくれているわけだから、その時間は人の時間なんです。だから上映時間を3時間、4時間にするのを「勝手や」と思う人があるかもしれないけど、それは甚だしい間違いで、2時間で話すことを1時間で話すようにしないと。作った方も主役かもしれないけど、見る人も主役なんだということですね。

 そのためにも、上手な語り口にするとかね。へたな話って、最初の10分でいやになりますよ。どうしたら見る人をぐいぐい引っ張っていけるかっていうことを考えないとね。

 そうした制約があるから映画は面白くなるんです。見る人に気をつかうのも制約だし、お金のことも、時間のこともね。制約の中でどんだけ知恵を使うか、そこですよ。だから、いろんな映画を見なさい。他人の作品を見なさい。見て勉強してほしいですね。

 《大森さんが学科長を務める映像学科では、作品作りを体験しながら映像製作に必要な知識と技術と精神を身につけてもらおうというカリキュラムを組んでいる。1、2年で撮影、録音、照明、編集など映像製作の工程を勉強し、3、4年ではそれぞれの分野の専門性を追究している》

 それから考えてほしいのが、よく、自分の作品を得意げに「これオリジナルです」っていうケースがあるけど、映画は古今東西、何万、何十万本とあるんやから、「君が考えたことくらい、すでにだれかが考えている」ということですね。

 で、過去にあったとしたらそれであきらめるんやなくて、それを乗り越えて初めてオリジナルになるんですね。自分が考えたことは世界には絶対にあります。ぼくらプロでもあるんです。それを取り寄せて見たりして、それを超えないとね。でも、超えるということは少しは有利なんですよ。相手の攻め方を見てこっちが攻められるわけですから。まねはいけないけど、絶対に見た方がいい。

 撮ることが楽しいというだけでは、いい映画は作れません。だって、これまで作られてきた映画は、みんなが見たから映画として残ってきたわけでしょ。だれも見ていない映画って残っていませんよ。

 《大森さんの授業では、過去の名作や大森さん自身の映画を上映して作品を分析したり、学生たちが製作した映画を見て講評することなどを行っている。平成20年度は「映画を通した人格形成」「映画を通して人生を豊かにする」なども意識して教えたという》

 それと、映画というのは小説や絵と違って、映画監督1人だけではできません。最近は、1人でやりたいという学生がけっこういるんです。自分の好きなことをしたいし、人が入ると邪魔されるとかね。でも、人の意見を吸い上げないと映画は太りません。映画はものによっては億単位の膨大なお金がかかります。それは大勢の人を巻き込むからなんです。

 「いい映画撮りたかったらみんなとやれ」だけではなくて「映画撮りたいと思ったらみんなでやらないとお金が集まらない」ということなんです。映画の基本はコミュニケーション。これを欠かしてはいけませんよ。

 (山口淳也)

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 【プロフィル】大森一樹

 おおもり・かずき 映画監督。京都府立医科大卒で医師免許を持つ。高校時代から映画を製作し、昭和52年の城戸賞受賞を機に翌年、商業映画デビュー。代表作は「ヒポクラテスたち」「風の歌を聴け」「ゴジラVSビオランテ」「わが心の銀河鉄道~宮沢賢治物語」など。平成17年4月に大阪芸大映像学科教授となり、18年4月、学科長に就任した。

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