2009.03.01 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,716字)
□キャラクター造形学科長 里中満智子さん
◆自分の感性を大事に
漫画って便利だなあって思うの。私が前に見た映画で、とある元貴族のおじさんが落ちぶれて、最後に唯一の友達の犬を抱いて鉄道に飛び込もうとするの。そしたら犬が「イヤイヤ」と暴れて死にきれず、「悪かった。もう死ぬなんて考えない。これからも一緒に生きよう」と犬に言うんだけど、犬が逃げてしまうのね。かわいそうな話だったんだけど、これ見て、映画って大変ねって思ったの。犬に演技指導はできないしね。漫画は、根気さえあればどんなシーンも描けるの。描いて描いて練習してください。
《里中さんが学科長を務めるキャラクター造形学科は、魅力的なキャラクターをつくり、動かし、生かす基礎を学び、そこから学生それぞれの興味ある分野を研究する。里中さんは漫画を指導。「客観性をどう認識するかが大事。またそれ以上に大事なのが熱意です」と強調し、「私たち教える側の役割は、いかに新鮮な刺激を与え、いかに学生の可能性を確信を持って言うかです」と話す》
画面づくりについて、永久に忘れてはいけないポイントは、とにかく見開きで構図を考えることです。右ページと左ページで同じ角度の顔、同じポーズ、同じカメラ視線…なんかがないかどうか。それから、吹き出しの大きさを考えることです。文字の大きさをそろえて、日本語を整理して改行も考えて、ぎりぎりの大きさに吹き出しを書かないようにしないとね。
こんなこと考えるのはつまんなくて、決めポーズやいい顔を描くことに一生懸命になりたいでしょうけど、全体の画面として自然に見せるためには、絶対に忘れてはいけないんです。
それから、キャラクターは、自分が好きな小道具だけでつくらないこと。自分の好きな小道具マイナス1、つまり、まゆ、目、鼻、口のうち何かひとつは好きでないデザインにする。この人は好きでない目に、この人は好きでない口に、というふうに描くと、どんどんキャラクターの描き分けができるようになります。
《ここで、学生のひとりから漫画の構成力についての質問が出る。里中さんはシンデレラの話で「姉が2人出てくるけど、2人はいつも同じ反応。1人にするか、2人の性格や反応を変えた方が面白い構成になるのでは」などの例も挙げながら説明した》
読んでいて、人間関係とか状況とかがストレスなく頭に入ってくれば、それはおおむね構成力があると思います。同じ役割の人物や同じような出来事といった無駄がないこと、つじつまがあうことや、無理なくドラマチックに展開されていることも必要ですね。
ドラマチックっていうのは、のっぴきならない事態のことで、私だったら逃げ出したいわ、って思うくらいのことなの。こうなるんじゃないかってその通りになるのはつまんないのよ。
よくあるじゃない。初恋もので、好きな彼がいるんだけど、友達同士で「今さら告白できないわ」って思っているときに、ライバルの女の子がでてきて、だいたいライバルの子ってブリっ子でね、主人公はボーイッシュなの。こうなると読者は分かり切っていて、最後にうまくいくっていうおきまりの展開なのね。
例えば、彼が本当にその女の子を好きになっちゃうとか、女の子は主人公と近づくために彼に近づいた同性愛者だった、とかね。どっかで一度つくった話を壊してみる。そこからドラマって生まれるの。
いろんな物語を読んだり映画を見たりして、面白いな、つまんないなって感じる気持ちがあればそこに到達できると思う。それで、人が面白いといったから面白いって思わなくてもいいんです。それがその人の個性ですから。自分の感性を大事にしてくださいね。
(山口淳也)
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【プロフィル】里中満智子(さとなか・まちこ)
16歳のときに「ピアの肖像」で講談社新人漫画賞を受賞し、高校在学中にプロの漫画家となる。「あした輝く」「アリエスの乙女たち」「海のオーロラ」「あすなろ坂」「天上の虹」などヒット作は多数。日本漫画家協会常務理事なども務める。平成15年4月に大阪芸大キャラクター造形学科の教授となり、20年4月、学科長に就任した。
撮影・前川純一郎
産経新聞社