大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(21)
2009.09.06 大阪朝刊 21頁 大阪総合 写有 (全1,776字) 
 ◆体温のある言葉を

 コミュニケーションの原点は、自分の思いを自分の言葉で相手に届けることです。自分が100%伝えているつもりでも、相手にどれだけ伝わっているか難しいですね。「伝えるイコール伝わる」になればいいけど、みんなイコールにならなくて悩んでいるんじゃないでしょうか。

 《石川さんが教授を務める短期大学部広報学科では、出版、広告、放送、映像などのメディアや演劇についての専門的な教育を実施。石川さんが担当する授業のひとつ「アナウンス演習」では、アナウンサー志望だけでなく、演劇やデザイン美術などを勉強する学生たちも集まり、正しい発声、発音といったアナウンスの基礎や話し方を学んでいる》

 「伝達ゲーム」ってあるでしょ。10人ほど並んで順番に伝え、最初の内容がちゃんと伝わったかというゲームね。これは統計上、50%から30%しか伝わらないそうなの。なぜだと思う?

 まず、声が小さかったり、口の中でもごもご言ったり、ということがあります。発音が悪く、滑舌が悪いんですね。でも、これは直せます。発声練習でね。「あえいおう」と母音を発声して口を大きく開けて口の周りの表情筋を伸ばすと、滑舌がよくなります。また、腹式呼吸のやり方を覚え、横隔膜を強くすることで大きな声が出るようになります。ここまではハードの部分ですね。

 ソフトの部分は話の内容ですが、書き言葉を話し言葉に直すことが大切です。誰にでもすぐ分かる、はっきり分かるように気を配らなければなりません。

 例えば同音異義語。「貴社の記者が汽車で帰社」。どうですか? 見たらすぐに分かりますが、聞くと考えないといけないので、スムーズに伝わりにくいですね。だからなるべく使わない。専門用語や、仲間うちの言葉もそうです。あと、漢語は和語に直して話しましょう。「通知」を「お知らせする」にするとかね。難しい言葉を使わないといけないときは、言い換えるなりして補足します。テレビ、ラジオのニュースでもそうでしょ?

 「はっきり分かる」ということでは、例えば私が「高い木」と言うと、みんなひとりひとり違う木を想像すると思います。「コマーシャルの『♪この木何の木』の木」とか、だれもが知っている木を言うと、みんな同じものを想像するでしょうけど。「自分が分かるから相手も分かるだろう」という思い込みはよくないですね。コミュニケーションには相手がいますから、相手のことを思いやって言葉を選ぶんです。

 また、話のネタの引き出しをたくさん持たないと、会話が広がりません。いろんな人に会って話を聞いて、ものを読んで見て触れて、いろんなことを勉強して、引き出しを広げていくことが大事。それによってコミュニケーションが長く続き、広がります。

 あと、大切なのが「非言語」の部分。所作や、動作や、立ち居振る舞いです。言葉だけでは相手に伝わらないことも、非言語の部分が加わって初めて伝わることがあります。例えば「こんにちは」という言葉に、非言語のおじぎ、そして笑顔が入ると会話として成り立つわけです。

 《石川さんの授業は実技指導も多い。発声や発音はもちろん、「非言語」のおじぎの仕方、表情のつくり方なども指導する。「どんな仕事でもコミュニケーションは必要。社会に通用する話し方を身につけてほしいですね」と話す》

 そして、コミュニケーションにとって最も大切なのが「体温のある言葉」を使うこと。それがパーソナリティーにもつながります。相手を思いやる気持ちは言葉になって現れます。だから、体温のある言葉を相手に投げかけてあげてください。そうすることで「伝えるイコール伝わる」に近づくでしょう。

 (構成・山口淳也)

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 【プロフィル】石川豊子

 石川豊子(いしかわ・とよこ) アナウンサー。鹿児島テレビ放送の局アナを経てフリーとなり、毎日放送「奥さん2時です」、NHK「きょうの料理」の司会など、在阪のテレビ、ラジオ各局で活躍。平成7年のAPEC大阪会議プレスセンター「三千家お茶席」など、イベントプロデュースも手がける。「石川豊子ことば塾」主宰。平成19年4月、大阪芸大の放送学科講師となり、20年4月、短期大学部広報学科教授・芸大放送学科兼担教授に就任した。

 撮影・塚本健一

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(20)短期大学部 川村龍一さん
2009.07.19 大阪朝刊 21頁 大阪総合 写有 (全1,585字) 
 
 ◆21世紀メディアをつくれ

 今日は放送局のスタジオ見学を兼ねた実習授業です。ここFM OSAKA(大阪市浪速区)で、ラジオ制作の現場を見てもらいます。作る側、表現する側に立って学びましょう。

 《大阪芸大グループの出発点となった短期大学部。伊丹校舎、大阪校舎があり、川村さんが学科長を務める広報と、デザイン美術、英米文化、保育、経営デザインの5学科から成る》

 この録音スタジオを借りて、模擬放送をしましょう。みなさんがラジオのパーソナリティーになったと想定し、私と掛け合いでしゃべってください。語りかけるときは多数の人が前にいると思って、マイクを人の顔に見立てて気持ちを傾けるよう心がけましょう。

 息はゆっくりと出したあと、話し始めてください。はく息と吸う息、自分の呼吸を早く覚え、しゃべりやすいリズムをつかんでください。ラジオでは聴きやすさの点から呼吸が大切です。当初はプロの物まねでもいいのですが、練習を重ねて自分のものにし、自分の個性、キャラクターを出すようにしてください。

 《現場での実習・演習が中心となる広報学科の授業。学生たちは放送局のプロデューサーらから制作現場の説明を受けた後、放送局の会議室で川村さんの講義を聞く》

 私のしゃべりのスタートは、このラジオ局でした。その後、テレビ番組などにも出て、いくつかの放送局で世話になりましたが、同じメディアであってもラジオはテレビと違って聴取者の目に見えないゆえに奥が深いのです。テレビのおもしろさも当然あるのですが、ラジオは音楽が入ったり、おしゃべりがあったりと、音がすごく大事なメディア。パーソナリティーの声になごんだり、嵐の音に身がすくんだりと、みなさんは音に関心を持ち、感受性豊かな人になってください。それがラジオから学べる「情」、情報の情です。

 これからも多くのメディアの現場を見る機会を設けます。実際に見て、触れて、みなさんに21世紀のメディアをつくってほしいからです。そのためには多くの人とのつながりを若いときにつくっておいてください。将来の財産にきっとなるはずです。私にもどんどんぶつかってきてください。それが20世紀メディアを担ってきた私からのエールです。

 《広報学科にはテレビ、ラジオといった放送をはじめ、新聞・出版、広告、映画・映像、演劇・演技演出の5コースがあり、学生の望む授業が選択できる。実習などによって、多様な体験をすることで情報発信者としての資質を磨く》

 人生の目標として「40歳のとき幸せになっている」とイメージして、今やることを考えてください。これは、66歳の私が20歳前後のみなさんに人生の先輩として贈る言葉です。今は、ひとつのことにのめり込み、がむしゃらになる、そんなひたむきさを求めます。

 ラジオならラジオの勉強、演劇なら演劇のことなど、自分の興味のある分野について懸命に取り組むことです。だれかが何かをしてくれるのを待つのではなく、自分から進んでやるのです。

 私たちは情報発信者として「見せて」「聞かせて」「読ませて」「考えさせる」側にいます。ひとつの技術に熟達していくとともに、人の心を動かす表現力を身につけましょう。時間はわずか2年。集中して、一緒に歩き出しましょう。

 (構成・三宅統二)

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 【プロフィル】川村龍一(かわむら・りゅういち)

 フリーアナウンサー、ラジオパーソナリティー。関西のラジオ局で音楽ディスクジョッキーや朝の情報番組を担当。毎日放送(MBS)のテレビ番組「ヤングおー!おー!」では、観客席から総合司会を担当。現在もMBSラジオの「川村龍一のゆ~ゆ~ラジオ」などを受け持つ。平成18年4月に大阪芸大短期大学部広報学科長兼広報学科教授に就任した。

 撮影・志儀駒貴(しぎこまき)

産経新聞社

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大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(19)デザイン学科教授 松井桂三さん
2009.07.12 大阪朝刊 25頁 大阪総合 写有 (全1,635字) 
 
 
感動を探しに行こう

 デザインというのは、見る人を幸せな気持ちにさせるのが大切です。幸せとは作品を通じて、美しいものを見せたり、感動させたりすることです。

 感動してもらおうと思えば、これまでにない新しい作品を見せないといけません。新しさで感動を呼ぶのです。しかし、新しい作品は公開した段階で消えてしまいます。新しさをもうひとつ越えることで名作となり、10年、20年たっても色あせない、心に残る作品となるのです。

 4年生であるみなさんは、1年生でデザインの基礎を学び、2、3年生で専門領域を学習してきました。学ぶ過程で新しいものは何か、だれも手がけていないことはないかを考えてきたと思います。考えて、考え抜いてシンプルにし、表現した作品が感動を呼ぶことを知ったはずです。「えっ、なぜ」「不思議だなあ」という感情を見る人の心に植え付ける工夫をしてください。

 《パソコンが並ぶキャンパス内のコンピューター室での講義。パソコンはデザインの現場でも欠かすことのできない機材。イメージの表現から図面作成、作品管理にいたるまで、あらゆる作業をパソコンが担っている。学生たちは、画面を見ながら松井さんの話を聞く》

 パソコンではデザインを簡単に手直しできますが、私が若かったころ、デザインはすべて手描きでした。作品の色を間違えたりすると、最初から描き直しでした。パソコンを使って便利にはなりましたが、面白みがなくなったように思います。

 みなさんは手描きというアナログの世界も大切にしてください。アナログには手の温かみ、人のぬくもりがあります。それが、見る人にあったかい温度で伝わるはずです。

 《授業はここで一般教室に移動し、4年生25人が卒業制作となるデザインのアイデアを披露。学生がお互いに批評し合う。4年間の学習の集大成になる卒業作品展は、来年2月中旬に学内、2月下旬に学外で開かれる》

 私たちが勉強してきたのは、平面作品のグラフィックデザインでした。新聞広告や雑誌のデザイン、ポスターなど、さまざまなメディアでの表現方法を会得してきました。卒業制作では完成度の高さを追求しましょう。みなさんが社会に出て、グラフィックデザインの分野などで活躍できるよう、一人一人をアドバイスしていきます。4年間が充実してよかったなあ、と思ってもらえるよう指導します。

 まもなく夏休みです。みなさんには夏休み中、デザイン以外の勉強もするよう望みます。旅をしてください。本を読んでください。すると、これまでに体験をしたことのない世界が現れます。それを「私の世界」として表現することで、心に残る完成度の高い作品が生まれます。自分が現在持っているアイデアを飛び越えるのです。

 (構成・三宅統二)

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 【プロフィル】松井桂三(まつい・けいぞう)

 アーティスト。政府広報や関西国際空港会社のシンボルマークデザインなどを手がけたほか、アップル社のデザインコンサルタント、ヒロココシノ・ブランドのアートディレクターなどを務める。グラフィックデザイン界の重鎮で、現在は世界各国のデザインコンペの審査員としても活躍。平成16年4月に大阪芸大デザイン学科教授に就任。20年4月から藝術研究所長。

 ◆17日にルーヴル学芸員特別講演会

 フランス・ルーヴル美術館の学芸員、マディク・ダヴィトさんを講師に招いた特別講演会「ルーヴル美術館のアート計画」が17日午後1時半から、河南町の大阪芸大芸術情報センターで開かれる。ダヴィトさんは大阪芸大が3年に1回開催している国際的なグラフィックポスターの審査会「5つ星デザイナーの饗宴~国際招待ポスタートリエンナーレ2009」の審査員で、講演会ではルーヴル美術館の裏話が聞ける。日本語通訳もある。だれでも入場でき、参加は当日受け付ける。入場無料。問い合わせは松井桂三さんが所長を務める大阪芸大藝術研究所(TEL0721・93・1398)へ。

 撮影・甘利慈

産経新聞