●FODMAP(フォドマップ)とは?

食物の成分の中には、多くの水分を小腸に送って腸管の膨張を生じ、腸内細菌がその成分を発酵させることで急速にガスを発生させるものがある。

 この成分の代表が、発酵性の、吸収されにくい短鎖炭水化物である。いわば腸内細菌にファストフードを提供する、不消化の糖分である。

 

 

 

●FODMAPはどうして過敏性腸症候群(IBS)症状の原因になるのか?

 FODMAPには、以下の3つの共通した性質がある。

 

1. 小腸であまり吸収されない

 FODMAP分子は胃から小腸に届いても、小腸でほとんど吸収されず、そのまま大腸へと通過してしまう。これは分解しづらい、または吸収が遅いために起こる。FODMAPを吸収する能力には個人差が大きく、IBS患者では特に悪い。

 フルクトースの吸収は誰もが遅いが、人によって、より遅いことがある。体内でラクターゼ(乳糖分解酵素)を十分作れない乳糖不耐症の人もいる。ポリオール(小腸の内層をうまく通過するのに難しい形状をしている)を吸収する能力も、個人差がある。フルクタンとガラクトオリゴ糖(GOS)に関しては誰も消化できず、誰にとっても吸収が難しい。

 

2. 小さな分子が濃い濃度で摂取される

 小さな分子が集中したものがうまく吸収されないと、体は消化管に強制的に水分を送ることでそれを薄めようとする。消化管内に引き込まれた過剰な水分は下痢(浸透圧性下痢)の原因となり、小腸の蠕動運動にも影響をあたえ、下痢や腹痛の原因にもなる。

 

3. 大腸内に自然に生息する腸内細菌にとってファストフード

 大腸(および小腸の下部)には数百兆個もの細菌が住んでいる。食べたものの分子が小腸で吸収されなければ、そのまま大腸に達する。そこに住み着いている細菌にとっては、FODMAP分子はいわばファストフードのようなもので、腸内細菌はFODMAPをすばやく分解し、水素や二酸化炭素、メタンガスなどを発生する。オリゴ糖など単純な糖は、より長い分子を持つ食物繊維、すなわち多糖類よりもずっと速く発酵する。小腸に引き込まれた水分と大腸における発酵に伴うガス産生は、腸の膨張を引き起こし、ガス、腹部膨満感につながる。

 

短鎖脂肪酸は健康増進効果を持つため、最近は発酵食品や水溶性食物繊維を積極的に摂取しようという知識が一般にも普及している。

 

 しかし、IBS患者の糞便中においては、もともと短鎖脂肪酸量が過剰に増加しており、しかも短鎖脂肪酸量が多いほどIBSの症状が重症であることが報告されている。IBS患者の腸管内では「ヴァイロネラ」と「ラクトバチラス」という腸内細菌が増加していることがわかっているが、これらは酢酸、プロピオン酸、乳酸といった短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌である。

 

IBS患者においては、FODMAPのような短鎖脂肪酸産生を促す糖質の摂取は、もともと過剰な短鎖脂肪酸産生をさらに亢進させ、IBSの症状を増悪させているのだ。

 

 

 

万人にとって「腸によい」というものはない

腸内細菌は指紋のように個人差が大きい。

したがって、「腸活」と称して一般的に「腸によい」というものをたくさん食べるとかえって下痢やガスなどが起こり、調子が悪くなる人がいることを知っていただければ、お腹の調子で悩んでいる視聴者のお役に立てると考え、今回私は番組の作成に協力させていただいた。

 

番組内容について、お断りさせていだくことは以下のとおり。

 

医師としては、できるだけ正式な「FODMAP(フォドマップ)」という言葉でこれらの食品群を紹介したかった。そのほうが、一個一個の食品をただ列記するよりも、視聴者の頭の中で全体像がつかめ、思考の地図ができるので親切だし、科学的だ。

 

しかし、テレビ的にそれは難しいということだった。

また、「過敏性腸症候群」という病名を出すのは難しかった。

あくまでもお腹が鳴りやすい人という内容となった。

これはできるだけたくさんの視聴者に興味をもってもらうためにテレビ的にはしかたないことだろう。

あまり複雑なことはバラエティでは難しいのもしれない。

まあ、今回は米とパンということで単純化させることで番組の趣旨である「この差ってなんですか」というテーマにも合っている。やむを得ないと考えられる。

難しい内容は、科学番組やNHK(今度も出演を依頼されている)でやるしかないのかもしれない。

 

 ただひとつ言えることは、今回の放映がこのような重要な知識を一般に浸透させるために、風穴を開けることにつながったのは間違いない。TBSテレビの英断は賞賛に値する。

過敏性腸症候群やSIBO(小腸内菌増殖症;Small Intestinal Bacterial Overgrowth)の患者さんが救われる世の中になることを心から祈る。

 

 

メモTBSテレビ解説①はこちらビックリマーク

https://ameblo.jp/akashieda/entry-12540351572.html

 

 

 

医療法人社団信証会 江田クリニック 院長 江田証

http://www.edaclinic.com/