文化祭が終わった。
外は夏がまだ物足りないとでも言わんばかりに蒸し暑いが、夕方を過ぎると若干秋の訪れを感じる。
夏歩との帰り道で、夏歩が突然、
「でもさ、えんって髪留め助手席に落としてたんだよね? それ彼女に見つからなくてよかったよね!」と大きな発見をしたかのように興奮していった。
「ああ、それなら、大丈夫。」私は笑った。
「髪留めは落してなかったの。土岐先輩に会えるための口実で。」
え、と夏歩が驚く。髪がふわっと揺れて、ヴィダルサスーンのいい香りがした。
事実、私は髪留めなんて落としてなかった。
助手席に座ってから、こっそり落としたのだった。
あれから1年がたち私は大学に進学した。
いろんな発見があって面白かった。
土岐先輩のことはあれからどうなったのか、誰も知らない。
教師になれたのかも、わからない。
あのころ、なんで小細工までして土岐先輩に会いたかったのか、今でもわからない。
恋のようで、恋でないようだった。
昨日、部屋のカレンダーで7月をめくって発見した。
ああそうか、海の日だったのか、あの夜は―。
今年も、また夏が来ている。
じーわじーわと蝉の声がする。
じーわ。じーわ。
まだ、この表現が変わらないでいる自分がいる。
私はバイト先に向かって自転車を走らせた。
【完】