文化祭が終わった。

外は夏がまだ物足りないとでも言わんばかりに蒸し暑いが、夕方を過ぎると若干秋の訪れを感じる。

夏歩との帰り道で、夏歩が突然、

「でもさ、えんって髪留め助手席に落としてたんだよね? それ彼女に見つからなくてよかったよね!」と大きな発見をしたかのように興奮していった。

「ああ、それなら、大丈夫。」私は笑った。

「髪留めは落してなかったの。土岐先輩に会えるための口実で。」

え、と夏歩が驚く。髪がふわっと揺れて、ヴィダルサスーンのいい香りがした。

事実、私は髪留めなんて落としてなかった。

助手席に座ってから、こっそり落としたのだった。





あれから1年がたち私は大学に進学した。

いろんな発見があって面白かった。


土岐先輩のことはあれからどうなったのか、誰も知らない。

教師になれたのかも、わからない。


あのころ、なんで小細工までして土岐先輩に会いたかったのか、今でもわからない。

恋のようで、恋でないようだった。




昨日、部屋のカレンダーで7月をめくって発見した。

ああそうか、海の日だったのか、あの夜は―。



今年も、また夏が来ている。

じーわじーわと蝉の声がする。

じーわ。じーわ。

まだ、この表現が変わらないでいる自分がいる。

私はバイト先に向かって自転車を走らせた。


【完】

誰が誘ったのか。

文化祭の2日目に土岐先輩は来てくれたが、

一人ではなく、きれいな女の人と来ていた。

土岐先輩はジーパンに黄色のドットが入った白いシャツを着ていて、男の子に見えた。

女の人はサイケデリックな柄のノースリーブに、黒のハーフ丈のパンツをはいていた。そして、ぽきっと折れてしまうのではないかというくらいに高くて細い、ピンヒールを合わせていた。

そんなに高い靴を履いたって、彼女が土岐先輩を超えないのは、彼女が背が低いというよりも先輩の背が高すぎるからで、そのことが、背の高いきれいなカップルにますます拍車をかけていた。でも、彼女が大人っぽすぎてなんか釣り合わない気もした。

周りの女子は大騒ぎして、写真をとりまくっていた。

私を見つけると先輩が笑顔になったので、私も笑顔になって挨拶した。



高校からずっと付き合ってる人らしい。

女の人が恩師とはなしている間、土岐先輩が私のところにきて話してくれた。



先輩に会うのはこれが最後かもしれないので、思いきって聞いてみた。

「土岐先輩、なんであの時、部室であんなこと話しかけたんですか?」

先輩はちょっとびっくりした表情をとったが、すぐに笑って

「知りたい?」

と返してきたので、はいと答えた。

「えんちゃん、学校の先生になりたいんでしょ」

土岐先輩は、間髪入れずに私の目を見て言った。

「え」

ものすごくびっくりした。

だって、誰にも話したこと無かったので。

「そんな気が、色紙みたときからしていたんだよ。だからなんか話しかけたくて」

聞けば、彼女も先生を目指していて、卒業式で土岐先輩の卒業アルバムに「適当に頑張って」と書いたらしい。

「それで高橋はメロンパン同じ食い方してるし、なんかかぶって見えてしまってさ」

と、土岐先輩が笑った。

なんとも不思議な話である。




つづく



始業式が始まり、私と夏歩は堂々と校歌を歌い(今回は歌詞を間違えなかった)、

教室に戻ったとたん、夏歩が昨日の話をしてきた。

「えん、わたし何を聞いても驚かないよ」

とニヤニヤしている。

夏歩は高橋と夏祭りに行ったらしい。

そこでキスをしたらしい。

高橋と・・・というよりキスをしたことがうらやましかった。

夏歩は、

「でも先生は大人だしねー車だしね、最後までしたんでしょ」

と肘をついてきたので、

「何もないよ」

と、本当に何もないので情けない気持ちで言った。

じゃあなんでいたのよ、と言われて、

この前喫茶店で偶然会って送ってもらったら、車の中に髪留め置いてきたら・・・などと話してしまった。私は嘘を言っていない。

夏があけて、しっかり勉強をしてきた人としっかりひと夏の経験をしてきた人が

はっきりわかって、それは前からあったけど、ますますくっきり境界線ができていた。

そして、なんだか私は中途半端にどこにも入れないような気がした。

土岐先輩は、なんで私に話しかけたんだろう。

なんで海に連れて行ってくれたんだろう。

なんでキスしてくれなかったんだろう。

2学期が始まってしまうと、一気に文化祭のシーズンになっていた。

うちのクラスはお化け屋敷をすることになった。

作業中、誰かが携帯にスピーカーを付けて流したので、仕事がより楽しくはかどった。

でも、GREEENの愛唄が流れたときは、急になんだかものすごくせつなくなって、

すこし泣いてしまった。


つづく