最初は怪しいと思っていた。
畳敷きの会場に
お年寄りが200人
60万円する健康食品が
今回は特別に30万円だと売る。
あちこちの地域に場所を移動する。
そんな会社に入社して5場所目に突入した。
もう、このころになると怪しいとは思わなくなっていた。
というよりも怪しいと思わないでおこうと努力をした。
どんな仕事でも心に迷いがあれば強くなれない。
これから売る商品を本当に良いものだと思わなければ売れない。
なので、自分で自分に催眠をかけだしたのだ。
人間の心から完全に迷いをなくすことは不可能だと思う。
しかし、そうであるべきだという考えで怪しむ気持ちを消し去った。
4場所目までは、注文数で先輩方の足元にも及ばなかった。
今度こそはと臨んだ5場所目だ。
そのころになると、もう完全に話の流れは理解できていた。
会場の真ん中に立ち商品の説明をするインストラクターの話の流れだ。
オープンしてから実際に売り出すまで10日間ある。
最初は、高額商品を売るという匂いを消しているが
徐々に売りの匂いを出していく
インストラクターが話を前に進めていくのだ。
それに合わせて私たちアシスタントも接客を前に進めていく
ただの世間話から
健康食品の話を少しずつしていく
そこでお客さんからの話の食いつきを見て、見込み客を作っていく。
世間話だけしているとお客さんは喜ぶが、それでは何の意味もない。
逆に商品の話ばかりをしていると、お客さんに嫌気をさされることが多々あるので、ほどほどにするさじ加減が必要だ。
自分なりに考えた接客をした。
5場所目の最初の高額商品の売り出しが始まった。
なんとなく注文が取れそうな手ごたえはあった。
インストラクターが前で叫ぶ。
本来は60万円するところが50万円も切って~~
私は自分の前に座っている見込み客に視線を送り
「うわ~~すごいですね~~」とニッコリ微笑みを送った。
見込み客の、お母さんは、にっこり微笑み返しをしてきた。
なんだか売れそうな感触を感じた。
さらに50万円ではなく40万円も切って~~
「いやいや、めっちゃいいじゃないですか~~~」
と、目の前の見込み客に、喜びの表情をぶつける。
見込み客の方々は、目をキラキラさせている
最終的にお値段はいくらなのだろうか?という緊迫したムードになる。
「これが最後です。今回だけ特別に30万円で~す。いやっほ~~」
「うわ~~~っ」と会場全体を無理やり盛り上げる。
さぁ、今からご注文をお聞きします。
ロックのリズムとともにお土産を配り
見込み客に
「うわ~~良かったですね。ものすごく条件がいいですよ。まずはご注文でお名前入れときましょうね」
そんなノリでポンポンポンと注文が取れた。
5本だ。
売り出し初日で5本は決して良い数字ではないが、先輩方もこの会場では苦戦しているようで私と同じような数字だった。
初めて先輩方に並んだ。
その後も勢いに乗った私は、「絶対にこれは注文しといた方がいいよ。おかあさ~~ん」
のノリで注文数を伸ばし、最終日までに12本取れた。
入社して初めて2桁とれた。
2桁の注文は一つの壁だった。
2桁の注文で、なんとか一人前と呼ばれる。
それでも先輩たちにはわずかに負けた。
しかし、私を見る目が明らかに変わっているのを感じた。
「こいつ、何かをつかみかけているな」と言う目になっていた。
このまま、先輩方に追いつき、追い越そう
そう、こぶしを握り締めた。