エーリッヒ・ケストナーの自伝の新訳本が昨年8月に岩波少年文庫から出ました。
「ぼくが子どもだったころ」。
懐かしさにかられて読みました。
なにしろケストナーは私の子供時代の読書体験においてなくてはならない作家だからです。
「エーミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」「ふたりのロッテ」「飛ぶ教室」
等、学校図書館で次々と借りて読んだ記憶があります。
文体にひかれていたと記憶しています。軽妙でのびやかで、ユーモアがあって、鋭い
批判も情緒もあるのです。
この本はそんな作者の子供時代が丁寧に描かれています。作品のバックボーンを垣間見ることが
できます。ケストナーの15歳までの話なのですが、その後の彼の人生は二度の大戦を経験して
行くことになるのを知った上で読むと、その子ども時代の輝きがより一層増してみえるのです。
母親の大きすぎるとも思える愛をよく理解している少年の心。
そして、子ども目線から周りの大人たちを的確に描写しています。
さて、以下に出だしの一節を記します。
まえがきのない本なんて
子どもたちと子ともではない人たちへ
~略
まえがきとなると、ぼくは勤勉なのだ。もしもそれが悪い趣味だとしても、やめられないだろう。
第一に悪い趣味ほどやめられないものだし、第二に、ぼくはまえがきが悪い趣味だなんて、これっぽちも
思っていないからだ。
~略
このように、この本はケストナーが語り掛けるように綴られています。
読み終えた私は、暮れ始めた空を窓越しに見て、フフッとなぜかひとり微笑んでしまいました。