めんどうだ

それには右足から入れることになってゐる

どうしても左足からではないやうだ

だれかが決めたわけでもないやうだ

ただ左足から入れやうとすると

躰が傾いておっとっとする

それが自分でも可笑しい

2022.11.23内田あぐり「Butoh Drawing」

 

はやくはやくと云ふ

でも時間を追い越してゆくわけにはいかない

それどころかどうかするとすぐ後ろに迫って来てゐて

はげしい息づかいが首筋に降りかかる

めんどうだ

右手を上げてもいいぢゃないか

それどころかその時には左手さんは鬱鬱していて

机の下に長いこと隠していた

 

日めくりが日めぐるめまぐるしく通り過ぎる

話する相手がゐない時は仕方が無いから自分の両手と両足に話しかける

顔は真ん中にあって見えないから

いい気なもんだ

太陽とお月さまが頭上を幾日も幾日も越えてゆく

おっくうにもなるわけだね

それが齢をとることだなんて

めんどうだ

足ばかりでなく手も

顔はしらばくれているけれどみるみる年老いていって

ものうく、

めんどうに、

億劫に、

やだねへ

 

倉石智證

マンションに穴を掘ってゐる

けふのベンはどこへゆくのかな

まるで臭い臭いチーズにでもありつけるとか

ようやくキャベツの値段が落ち着いてきた

量り売りなんか今さらないけれどね

マンションの奥の奥に入り込んで

掘削機でヨイショヨイショとやってゐる

まるで見知らぬ虫のやうになって

穴はどこにでも通じているのだ

 

早くキャベツを仕舞おう

ほかの野菜たちも早く早く奥の方に運ばないと

まるでチーズの中の穴だね

虫たちはたちまち虫になって

けふのベンはどこへゆくのかな

掘削機は放り出されたままだ

小さな穴を掘る音が

上の階の方でも微かに聞こえてくる

みんな礼儀正しい

エレベーターの中で会うと丁寧な挨拶をされた

まるで虫のやうだ

オーガベン「こころの宇宙」

 

倉石智證

1960白髪一雄「天敗星活閻羅てんぱいせいかつえんら」

1998吉田克朗「触 春にV」24,6,29日経

 

/悴んで鬼の手握る温かい

/おぼつかな接吻はなく節分や

/傘の中裃の人豆撒くや(成田山新勝寺)

/定番は鰯に豆や節分会

/豆撒いて冬は了はりと鬼に云ひ

/豆撒いて春は未だかと鬼に云ひ

/追儺(ついな)だよ村先々に鬼やらい

/covid も未だあるかもと鬼やらい

/修司では鬼解かれぬままに春になり

/宗達の鬼にうれしき春の風

/鬼の眼に泪、鰯の目に涙

1469~86「鷲の戦士像」アステカ

 

鬼さんこちら、手の鳴る方へ、

どうして赤鬼さんと青鬼さんなんだらう。

どうして角が生えているのかな。

あゝ、人の心に鬼が棲む。

鬼の眼に泪。涙たり。

桃太郎さん桃太郎さん、鬼ヶ島なんてどこにあるの。

きっとアメリカトランプの

心の中の鬼ヶ島。

evilはdevil、devilはevil。

あゝ、あれは栄養のいい赤鬼さんだな。

 

倉石智證