ば様の認知の森。
セピアの古いモード雑誌をばらけさせて。
古い土蔵の家があって/傘を掛けなきゃいけないと盛んにば様は口にしてゐる/ご先祖さんがいっぱいゐるお仏壇のまへに行っても同じことを繰り返す/縁先には日が射していて/その先にはお守りの樹が大きくなって/南無、と手を合わせるのだが/一歩も二歩も歩き出すたびに/見事に他のことは忘れて/傘を掛けなきゃなあ/と同調を求めて来る
/ナツズイセンの葉叢が地表に盛り上がって来た/チューリップの芽も地中から勢いずいて/わたしは後じさりして私が見上げるのは一歩も二歩も土蔵だ/ば様は古びて変色してしまった本をいぢり崩して/傘を掛けなきゃなぁ/と眼は真剣なんだけれど/もうその眼の奥はどこか遠くに出掛けて行って仕舞ってゐる/いまは三月だから/葡萄の傘懸はずーっと後だよ/葉っぱがいっぱい茂って来て/そうさな七月ころになる
倉石智證


















