マメ騒動。

ばあさんまたお仕事あてがわれてうれしそうだね。エンドウ豆の鞘抜き。手のひらの指の股にたくさん挟んで、無理無理だけどまあいいか。「マメさんが莢から出たがって騒いてゐるよ」って、お豆さんはポンポン弾けて床に転がり出る。指のお働きは脳のお働きにもいいんだって、脳知はどんどん曖昧模糊になってゆくけれど、時々空が霽れわたるやうに回路が繋がる時がある。幼い時の思い出話に花が咲くときだ。妻も大変だね。相槌を打ち、繰り返し繰り返し何度でも…。妻は洗濯ものを、とちょっと席を外して戻って来たら、あ~ぁ、やっちまったね。せっかくお豆を溜めたボールをひっくり返してしまっている。ばーさん曰く、「覆水盆に返らず」。回路が繋がってゐる。エライねぇ(笑)。

 

倉石智證

ば様に訪問散髪。

ばーさんに出張散髪。齢を取ってゐても髪の毛と爪は伸びる不思議さ。リハビリにば様の髪の毛が鼻の穴に触れてくすぐったくてしょうがない。まあしかし、すっきりときれいになったね。「ベッピンさん、どうかね、また嫁にでも行くかね」「やだやだ、もう苦労なんかしたくね」。飾り棚のじ様の写真が笑うかのやうだ。ば様ときたら最近はじ様の名前が浮かんで来ない。そのうえわたしのことをおじいちゃんと呼ぶ始末。根こそぎいろんなものを持っていかれて頭の中は春風が吹いているのかな。普段は妻にお尻の面倒を見てもらってるのにその妻の名前も出てこない時がある。でもお陰様でよく食べて、よく出して、そして気が付けば四六時中眠ってゐる。いやしかし、「こんなふうになっちもって生きてても困る」「生きるのは厄介だ」と、結構本人は神妙で、リハビリに立たせると仏壇の前で「南無」、としっかりした声で「お守りください」と云ったりするのである。

 

倉石智證

走り梅雨。

梅雨晴れ間。

/コアジサイ一番乗りを走り梅雨

/藁敷いて南瓜の寝床作りけり

/茗荷茸の片暗がりで蚊に喰われ

/背丈超え皇帝ダリア梅雨晴れ間

/移植するゴミ捨て場からゴーヤかな

/試し掘りまだ小さきを二つほど

/義兄さんに茄子三本立て教わりぬ

/デイの日はデイの日乍らさながらに家事洗濯にお掃除をする

/露草の律儀なまでの梅雨の朝

/深緑やパセリな朝になりました

/芍薬の頸刎ね小菊の頸を刎ね

/紅ハルカ新葉(しんよう)生るゝ独り立ち

/キジバトの啼いて眸赤き梢かな

/十薬のからめとられて十三時

/アルデンテ、ビーンズスープにパセリかな

/種蒔きや妻にゆずれぬ作法あり

/里芋の葉は未だしも露弾き

/ごびらっほは未だだあの雲がいいな

 

倉石智證