おまいがどこふくなとゐるからねこじゃらし

どうもこちらを向いているらしいと

わたしもおまいの方を向く

じっさい心底どこなと行こうとしてゐるのか

眼があるのかね

匂いはどうかね

いや興味の無いことにはさっさと顔を背けて

だからねこじゃらし

風が吹けば思いっきりのけぞって

わたしの鼻先で巫山戯ゐる

 

幸福になるのか不幸になるのかは今は分からない

それを明日の朝になれば

しっかりと蔓を伸ばして

あらぬものに巻き付けて

一心不乱にそれを自分の運命に仕立てる

みんな気儘に自由だね

おまいがどこふくなとゐるからねこじゃらし

風がさあっと吹けば青い穂立が一斉に揺れ

それでみんなは硬く出発を決意する

 

倉石智證

田舎通信───

乗用除草機初仕事。

大玉西瓜の収穫。

なんと9㌔。

/大玉や9㌔ 秤仕事かな

/玉つぐや野良ともならず大西瓜

/父に侘び母に侘びして西瓜かな

/トラ刈りや乗用除草機初仕事

/夏草の勁草となり刃に絡まるエンジンの音熱く昂る

/三千世界虫泊まらせて小菊かな

/ままならぬ事もあらうにねこじゃらし

/一本の胡瓜は蔓に語り出す

/花は好きかと百日草に問へば

/楽しみはこれからの風シキブの実

 

倉石智證

お父さんが、

『なかなか いい あなが できたな』と言うと、

ぼくは『まあね』と言う。

おとーさんは勝手に大分前に死んでしまっているので

そっからの話はふっつりと途切れている。

あんなことぐらいで不良になるわけがないのサ。

 

誰でも若いころは穴の一つや二つぐらいは掘って

お山の大将力自慢に、

馬鹿みたいに穴の縁に立ってガッツポーズをする

面白可笑しくもないけれど

おとーさんは大分前に当然死んじまっているので

今更褒められるわけもないが

代々穴掘りなんかは続いていて

いつかは自分も穴の底に落ち着いて

ぽっかり空いた空を見上げることになるんだ

1969香月泰男「青の太陽」作者はシベリア抑留者

 

白い雲がふわぁと流れてゆく

お父さんが、『なかなか いい あなが できたな』と言うと、

ぼくは『まあね』と応えるしかない。

 

だんだん敗戦日が近づいて来るので───

7/16トリニティで原爆実験

「赤ん坊が生まれた」

とトルーマンは報告を受ける。

7/25ポツダムで日本に原爆投下を指示。

7/26に『ポツダム宣言』を発表。

日本の無条件降伏に拘わらず、原爆投下は先に決められていた。

神頼みの日本は『日ソ中立条約』を頼りに、

ポツダム宣言を無視した。

8/6ヒロシマ

8/9ナガサキ

8/9ソ連の満州等への侵攻

8/14『ポツダム宣言』受諾。

日本全国への空襲は

8/15まで続いてゐる。

ポツダム宣言後、ヒロシマ、ナガサキを含めて

無慮30万人くらいの人命が損耗したのではないか。

“受忍”と云ふ文言である。

国家は未だにその責任を明確にしていない。

 

倉石智證