凩一号。

/謎解きや凩一号てんこ盛り

/野分吹く形象在るもののたじろぐ

/柿の実に色落ちて来る朝の寒む

/式部の実放恣となりて捨てられる

/芋掘りて近しき名前紅はるか

/長ネギの寒さ俄に背を立てる

/柿の木に梯子甲州百目かな

/落花生掘りて小春の妻とあり

/秋海棠花ばかりかは黄葉つれ

/白躑躅伝えたきこと帰り花

/石灯籠の冷えて石蕗(ツワブキ)の咲きぬ

/満天星(ドウダン)の夕日に冴える紅葉かな

/予報見て皇帝ダリアにやきもきす

(霜にやられたら一発でダメになる)

/野分吹くギンナン拾いに行かずなり

(ば様昇天されて、気が抜けたままに)

/落花生干してネズミか鴉かな

/乱れ菊うれしきまでに気の昂り

/乱れ菊乱れしまゝに菊日和

/庭師また腕組みをしてクマンザレ

 

倉石智證

/収骨や椿の花の二三片

一粒のなみだかもしれない。一陣のほんの風のやうなものかもしれない。ご焼香の客人のみなさんが集まる頃にはやはらかい朝の光が座敷の中の方にまで差し込んでくる。読経の声も相応しい。立花の菊の香は淑気かなである。全員の脳裏になつかしい好き思い出が駆け巡り、卒塔婆の白木に新しい戒名が記されている。あるほどの花を個人の顔の周りに飾り、天干、手甲に脚絆、杖を持たせればお旅立ちの準備である。今生の姿形はここまでですよ。

金釘が打たれ、霊きゅう車に乗せる。おお、モノが無しいクラクションの音よ。ご近所の人たちの列が一斉に頭を垂れる。しらしらとほらほらこれがおばあちゃんの骨だよ。立派なお骨だったね。まだまだ百歳までいけたね。流れ作業のやうに、アッと云ふ間に収骨になり、永い永い人生は了はり、ば様は骨壺の中に納められた。三々五々お悔やみの人たちは自分たちの暮らしの中へ帰ってゆく。どっと日常が葬儀の上を埋め尽くし、それは一粒のなみだかもしれない。一陣のほんの風のやうなものかもしれない。知らぬ顔をしてまた時は過ぎてゆく。

/収骨や椿の花の二三片

家族葬。

葬儀前夜。

/隠国(こもりく)の未だ見ぬ国の遠の途

いざ待ちわびる今こそいかん

享年99歳にもなれば周りの人たちもみんなみんなあちらへ旅立たれ、残される人たちもみんな老いた人ばかりの人たちになる。葬儀はごく内輪のぼくらの家族葬と云ふことになった。枕経を誦まれ、南枕から北枕に、臨終経の読誦になった。小さく尹尹と響く鐘の音。お式の準備がだんだん整ってきました。祭壇には遺影のお写真、なつかしい笑顔だ。両脇には飾り花を立てる。まるでセレモニーと変わらぬくらいに華やいだ。庭木はぼくの剪定、松からヒバ、躑躅からツガ、ヤツデの葉っぱの整理まで、なんと全部危篤のときまでに間に合いましたよ~。ば様エライね、僕らに時間をくれたみたいだ。さあ億光年の彼方にお旅立ちです。守り刀を白布の胸の上に、姻族の数限りないまなざしに包まれて、明日には白木の卒塔婆に新しいお名前が記される。少しの烟と共にまるっきり入れ替わるんだね。ご来客が立ち去られた後の座敷にまたお一人になられた。静かだねまったく。まだ形骸があるうちに唇にお湿りをあげようか。

般若波羅蜜多

羯諦羯諦ぎゃていぎゃてい、

波羅羯諦

さあみんなで渡ろう。

法光あふれる永遠の国に。

 

倉石智證