1945,8,5・「いつもこんなだったらいいなあ」(建物疎開の前日)
家族や親せきで食卓を囲む賑やかな一日を過ごした。
過去を振り返ればどこからどこまでがむかしで
しわくちゃなば様は
そんなことは知っているが
脳ミソの中ですっかり忘れた
シミだらけの両腕の中むかしを凝っと凝視める
なにかが出てくるのかと思へば
蠅の一匹くらいで
昏い奥には何百何千と云ふウジ虫が蠢いて
肉を啖(くら)ふ
骨を啜(すす)る
八月はどこを見ても旺盛で
八月はどこかイタクて、どこもかしこも疼いて
白い開襟シャツの少年やブラウスの少女が鐘を突き鳴らす
だれもかれもが「しっかり向き合え」と云い馴らすが
けっこうもう手遅れで
大勢の人らが駅とは反対の方に歩いていく
何千何万度と云ふピカドンが破裂して
おそろしいキノコ雲が空に聳えた
「水をください」
が宇宙の果てまでエコーしてか細く伝わってゆく
ひどいことをしやがるなぁ
a rain of ruin
やがて黒い雨が人々と地に降り注いだ
倉石智證













