1945,8,5・「いつもこんなだったらいいなあ」(建物疎開の前日)

家族や親せきで食卓を囲む賑やかな一日を過ごした。

 

過去を振り返ればどこからどこまでがむかしで

しわくちゃなば様は

そんなことは知っているが

脳ミソの中ですっかり忘れた

シミだらけの両腕の中むかしを凝っと凝視める

なにかが出てくるのかと思へば

蠅の一匹くらいで

昏い奥には何百何千と云ふウジ虫が蠢いて

肉を啖(くら)ふ

骨を啜(すす)る

 

 

八月はどこを見ても旺盛で

八月はどこかイタクて、どこもかしこも疼いて

白い開襟シャツの少年やブラウスの少女が鐘を突き鳴らす

だれもかれもが「しっかり向き合え」と云い馴らすが

けっこうもう手遅れで

大勢の人らが駅とは反対の方に歩いていく

何千何万度と云ふピカドンが破裂して

おそろしいキノコ雲が空に聳えた

「水をください」

が宇宙の果てまでエコーしてか細く伝わってゆく

ひどいことをしやがるなぁ

a rain of ruin 

やがて黒い雨が人々と地に降り注いだ

 

倉石智證

警戒音。

スワ、いよいよその時が来たかと…

/朝涼や軽トラでゆく出荷かな

/去年より早き出荷の巨峰かな

/道野辺にヒルガオが咲く朝かな

/おまへと呼び呆れかえるや土手南瓜

/枝豆を細く長くと喰い繋ぎ畝に屈める夕餉の亭主

もう十日ほども夕餉に愉しめている。

ビールのお伴、どうもいぢがきたないなぁ(笑)。

/百日草倒れて意地を曲げにけり

/剪定を式部の枝に入れ直す

/警戒音地震速報夜辺同時

スワ、ついにその時がやって来たか、と一瞬焦りまくる。

南海トラフとは無関係らしい。

子供たちにメールを入れまくる。

/百日紅百日の内半ばまで

/早起きやくまんざれする夏落ち葉

毎日が平穏無事ですごせますやうに !

 

倉石智證

みんなロンググッドバイなんだから

目の前の一歩だけを見つめてね

レモンティーの檸檬

窓際の心象

葉っぱが揺らぐ

2024,7,15小宮千原『水面』

 

もしきみが出掛けていくと云ったら

その時はどうしたらいいんだらうまだ心構えが出来ていない

水の中に皺がある

潜ってしまへばもう水のゆらぎだ

その隙間隙間から陽の光を浴びて

鮠の背びれにも触れるのサ

 

みんなロンググッドバイだから感情が昂る

水の中は透明な水族館で声はくぐもるほどで届くことは無い

手を伸ばせばすぐそばのあなたにも

だからそのもどかしさがいとほしい

レモンバジル

鼻腔に抜けてゆく

すべてが過ぎ去った日月へと遡ってゆく

 

死なんか決して追い付くことなんかなく

水の中で決して息苦しいことなんかないと同じやうに

無数の泡粒が水面に浮き上がってゆくのを見ながら

あの上には多分空が

そしてもっと自由があると

手を取り合ってね

決して放さないでねって

 

さうしてその時が来たらようやく

死は生に追いつき

死は生を包み込み生は委ねられ

窓際の心象

大きくダイビング

心底、ロンググッドバイなんだ

 

倉石智證