不思議だ。

毎年、毎年、

お盆過ぎれば庭前に虫が鳴きい出す。

/ばーさんをデイに送るや朝の涼

/車椅子を庭に降ろしてデイの日や

けふはお風呂と何度でも云ふ

/しみじみとお盆御座れの人となり

/雲の峰いくつ崩れて敗戦忌

/ナツズイセン幽霊花と呼ばれけり

/お灯籠を墓に外して見送りぬ

/揚げ茄子を冷やし茄子して冷やし蕎麦

/百合の花落ちて関東豪雨かな

/トンボうのフロントガラス秋の風

/ある人の誕生日過ぎ大暑かな

/野分めく茗荷畑に風の痕

/不思議だねお盆過ぎれば虫の聲

/盆過ぎて色落ちて来て葡萄棚

/枝豆もたうたう畝に了はりけり

/油断ならんね地這え胡瓜だね

地這え胡瓜は葉叢の陰に身を隠して、

いつのまにか丸々と太ってゐる。

油断ならん(笑)。

/中元の季節お手紙涼やかに

/粗草(あらくさ)にワッと虫湧く溝掃除

/畑隅に南瓜兄弟並べ見る

あの娘には夏の空の白雲に向かってグッドエモーション

ぼくはグッドロコモーション

横にふらふら縦にふらふら

髪が風になびくよ

長い街から続く下り坂

自転車がいいね鼻歌を歌いながら

そんな景色を齢をとってから思ひ出す

夏雲は湧き上がるよ

どこかへ連れてっててね

ぼくはグッドロコモーション

横へふらふら、縦へふらふら

よおし、約束しよう

仕事はちょっと脇へ置いておいて

買ったばかりの真っ赤なブルーバード

北のペニンシュラを目指して宿も取らずに出発する

能登はいいね、やさしいね

何があったか知らんけれど

海に向かって走る

蒼い山を出たり入ったり

大海原を右手に見たり左手に見たり

ええいとばかりに高いお宿に飛び入ったりする

こわいもんなんかないって云うのがいいね

グッドエモーション

まだ化粧も下手な娘っ子だったけれど

she gives me good vibrations 

夏の雲はいいねどこまでももくもく

ぼくはグッドロコモーション

横にフラフラ、縦にふわふわ

うわぉ

 

倉石智證

あらぬ方を見てゐる

あの人は山から下りてくる

誰にも会わなかったよ、と告げる

2024,8,5Tac.m『山の神』(Art Gallery)

 

足元は山露でぐっしょり濡れていた

クマに遭ったのは確かだった

少し登山道を歩きそして藪の中に消えた

 

山小屋の宿泊はわたし一人だけだった

灯りを点けたものかどうしたものか

 

倉石智證