米軍でのサリンの生成方法はオウムとは違うやり方なのだが、オウムでは4段階の生成方法と5段階の生成方法は基本的に同じものである。
第1段階の三塩化リンから始めるか、第2段階の亜リン酸トリメチルから始めるかの違いだ。
第1段階の三塩化リンから亜リン酸トリメチルを生成する場合は、その反応過程で酸が発生するために塩基が必要になる。
第2段階から第4段階までの反応では、酸は発生しない。
酸が発生するのは第1段階と第5段階だけである。
5段階の生成方法では、この第1段階で使った塩基を同じように第5段階でも使う。
それに対して、4段階の生成方法では第1段階が省略されているために塩基を持っていない。
それで、塩基の代わりにメチルホスホン酸ジクロリドを使っているのだ。
メチルホスホン酸ジフルオリドとメチルホスホン酸ジクロリドはどちらもサリンの前駆体だが、メチルホスホン酸ジフルオリドが最終前駆体であるのに対して、メチルホスホン酸ジクロリドはその1段階前の前駆体である。
メチルホスホン酸ジクロリドにフッ素を反応させることで、メチルホスホン酸ジフルオリドが生成される。
メチルホスホン酸ジフルオリドにイソプロピルアルコールを反応させることで、フッ素が外れ酸が発生する。
この外れたフッ素をメチルホスホン酸ジクロリドが回収することで、塩基の代わりに酸の発生を抑えている。
見事だ。
答えが分かってしまえば簡単な事だが、最初にこの方法を見つけ出すのは容易な事ではない。
土谷はこの方法を見つけ出すのに、どのくらいの失敗を繰り返したのだろうか?
ぜひ本人に手記を書いて欲しいところだが、どうやらそれは難しそうだ。
ここに現代日本の、死刑囚に対する待遇の問題が横たわっている。
手記を書いてもらおうにも、依頼のための面会すら出来ないのだ。
手紙を書いても、本人には届かない。
オウム事件にはまだまだ謎の部分が多いのだから、土谷の手記には犯罪の資料としての大変な価値がある。
ぜひ読んでみたいところだが、なんとかならないものだろうか。
死刑囚と誰でも面会出来るのであれば、可愛いアイドルでも連れていって、
「土谷さん、手記書いてください。」
とか言っておねだりすれば、書いてくれそうな気がするのだが。(笑)