Mとふたりで監視小屋の前に立つ。
静かだ。
人通りはない。
時折、目の前の道路を車が通りすぎる。
そのほとんどは上九方面へと向かうものであり、富士宮方面へと向かうものは少ない。
遠くから車のエンジン音が聞こえてきて、目の前をタイヤが地面をこする音、車体が風を切る音が通り過ぎていく。
音がするたびに、音の方向へと目をやる。
特に何も問題はない。
車はただ、通り過ぎていくだけだ。
朝の冷え込みから解放されて、Nは椅子に座ったまま温かい監視小屋の中で、うつらうつらと舟を漕いでいた。
今日は強制捜査の日。
そんな事を忘れかけていた、その時。
目の前を、富士宮から上九方面へ向けて、何かが通り抜けていった。
最初に視界に飛び込んできたのは、白と黒の乗用車、そんな風に見えた。
しかし、不思議だった。
音がしなかったのだ。
車が発するエンジン音、タイヤが地面をこする音、車体が風を切る音。
何も聞こえなかった。
その車は音を立てずに、滑るようにしてやって来た。
目の前を通り過ぎるまで、誰もその事に気づくことが出来なかったのだ。