亜リン酸トリメチルは、融点-78℃、沸点111℃。
これに対して、ヨウ素は融点が113.7℃。
なのでヨウ素は、粉末(個体)のまま触媒として作用するのだろう。
前に書いたように、酸化力はメチル基>ヨウ素なので、ヨウ素がメチル基と置き換わることはない。
これに対して、前の段階の三塩化リンから亜リン酸トリメチルへの移行は、酸化力がメチル基>塩素なので反応が起きる。
逆に、亜リン酸トリメチルに塩素を加えたところで、三塩化リンが出来るわけではない。
三塩化リンは、多くの化学薬品の製造で使用されているのだと思う。
酸化力が、メチル基>フッ素>塩素なので、塩素を簡単にフッ素やメチル基に置き換えることが出来るからだ。
ヨウ素の酸化力が弱いため、入れ替わることはないのだが、不思議な反応が起きる。
メチル基とリンの間の結合が外れるのではなく、メチル基の酸素と炭素の間の結合が外れる。
酸素は2本の手を持っているため、リンとの間に二重結合が起きる。
残った炭素と水素、つまりメタンから水素が一つ外れた状態では1本の手を持っているので、行き場をなくしてリンの非共有電子対から電子を一つ追い出してそこに結び付く。
この状態がメチルホスホン酸である。
メチルホスホン酸の残った2本の手に、メチル基が結びついたものがメチルホスホン酸・ジ・メチル。
塩素(CL)が結びついたものが、メチルホスホン酸・ジ・クロリド。
フッ素(F)が結びついたものが、メチルホスホン酸・ジ・フルオリド。
前に書いたように、「ジ」は二つという意味。
2本の手に、同じものが結合しているために、頭にジをつける。
名前を分解してみると、意味がとても分かりやすい。
メチル→クロリド→フルオリド→サリンと変化していって、分解された後はヒドロキシ基と結びつき、ただのメチルホスホン酸となる。
メチルホスホン酸は安定した状態であるため、それ以上の反応が起こりにくく、毒性はなくなっている。
サリンは分解されやすいために証拠を見つけることが難しいが、メチルホスホン酸は地中に残るため、メチルホスホン酸が見つかれば、そこにサリンがあった動かぬ証拠となる。