土谷が最初に作った透明なサリンが純度90%。
松本サリン事件の青いサリンが純度70%。
地下鉄サリン事件の茶色いサリンが純度35%。
後になるほど慌てて作っているので純度が落ちていくのだが、なぜ土谷はそれほど純度の高いサリンを作る事に成功したのだろうか?
その答えは簡単である。
蒸留して精製した、ただそれだけの事だ。
5段階の反応後のそれぞれで、ガスクロマトグラフィーにかける。
目的とする物質がいくらかでも生成されていれば、蒸留して分離すればいいだけだ。
後はこれを繰り返せば段々と純度は高まっていく。
で、蒸留はと言えば、これは小学校の実験を思い出してもらえばいい。
水とアルコールの混合液から、沸点の違いによりアルコールだけを取り出すというやつである。
サリンの製造という事になると難しいと考えてしまいがちだが、原理自体は小学校レベルでも十分に通用する。
小学校レベルで通用するという事は、作業自体はやり方を教わりさえすれば誰にでも出来るという事になる。
中川が言った「サリンは誰にでも作れる。」は、嘘ではなかったのだ。
オウムにおけるサリンの製造は秘密のワークとして行われたために、それに関わった人間の数が極端に少ない。
ほとんどのサマナはオウムがサリンを作っていることを知らなかった。
もし、オウムがイスラム原理主義者のような、本物のテロリスト集団であったなら。
千数百人のサマナを動員して、東京を壊滅させる程度の量のサリンなど簡単に作れていたはずなのだ。