化学反応は全ての原料に起こるわけではない。
何も反応せずにそのまま残るものもあれば、反応の途中の段階で生成される物質もある。
また、反応が不可逆的であるとは限らず、生成と分解という両方向の反応が同時に起こる事もある。
サリン製造の最終段階がまさにこれで、サリンの生成と同時発生する酸をジエチルアニリンを使って中和しなければ、サリンは分解されてメチルホスホン酸ジフルオリドに戻ってしまう。
だからと言って、ジエチルアニリンの量が増えすぎてもサリンは出来ない。
酸とアルカリ(笑)のバランスを取り続けなければならないのだ。
ここで、かつてあった都市伝説が嘘だという事が分かるだろう。
地下鉄サリン事件で使われたサリンが二液式であったという説の事だ。
二液に分けるとは、最終段階でメチルホスホン酸ジフルオリドとイソプロピルアルコールのふたつに分ける、ということである。
この二つの液体を混ぜ合わせれば確かにサリンが生成されるのだが、同時に発生する酸の働きでサリンはメチルホスホン酸ジフルオリドに戻ってしまう。
二液式でサリンを発生させ続けるには、米軍が持っているような酸を中和させ続ける装置が必要である。
オウムがやったような、ビニール袋に穴をあけるだけというやり方ではサリンはほとんど発生しないのだ。