タクシー会社は法人として保険に入っている。
事故を起こせば保険料が上がっていく。
なので、渉外担当の仕事は、被害者に支払う賠償金の額を少なく抑えるのが目的ではなく、事故そのものを無かった事にすることであるようだ。
なるほどね。
しかし、今回被害者請求をする事で事故の事実は明らかになり、タクシー会社にダメージを与えることが出来る。
まあ、こちらとしては、タクシー会社のダメージも謝罪も要求するつもりはない。
要求することはただひとつ。
金を払えという事だ。
何せ、Iさんは日雇い労働者だから、ケガをして仕事が出来なくなると、その日から収入が途絶える。
おまけにケガの治療代もかかる。
極限の布施をしている熱心な信徒には、そんな金銭的な余裕はないのだ。
向こうは好きにしてもらって構わないと言ったのだから、その言葉通り好きにさせてもらうことにしよう。
Iさんには、僕を代理人とする委任状を書いてもらった。
警察で事故証明を取って、保険会社で被害者請求の書類をもらう。
書類に一通り目を通して、とりあえず内容は理解した。