水酸化ナトリウムを使うことを思いついたのはいいけれど、自分で勝手にやるわけにはいかない。
そこで村井の許可をもらいに行った。
村井は遠藤や中川の実験棟と同じ並びにある村井専用の小さなプレハブの中にいた。
村井は例のごとく座ったままグラグラ揺れていたので、大丈夫かなと思いながらも水酸化ナトリウムを使うことを話してみた。
さすがに直ぐに意味が通じて「危ないから気をつけてな。」ということで許可が下りた。
許可が下りたのはいいが、問題はどのくらいの濃度ならいいのかということだった。
水酸化ナトリウムはレストランの厨房でのこびりついた汚れを落とすのに使われることもある。
その場合はほとんど水で薄めることもなくそのまま使う場合が多い。
大抵は金属部分の汚れだから後で大量の水を使って洗い流せば何の問題もない。
しかし、フイルターは大丈夫なのだろうか。
たしかにフイルターを傷つけてしまう危険性はある。
だからといって何もしなければどっちみちフイルターは使えない。
覚悟を決めて濃い目の水溶液を作ることにした。
ドラム缶の中に水酸化ナトリウムを入れて水に溶かす。
十分な量の水を入れてから、いよいよフィルターをつける。
しばらく置いて、水の中でゆすってみる。
カゼインはゆっくりと崩れ落ちていく。
しだいに中のフィルターが見え始めた。
やった、成功だ。
これでもう一度培養液を濃縮できる。
そう思った。