仮払い申請が通ったので、ホームセンターに出かけるというサマナの車に一緒に乗せてもらうことにした。
ホームセンターに行く前に寄る所があるといって富士の道場の前を車が走り出したのだが、進行方向がいつもと逆だった。
「あれ、どこ行くの?」と聞くと、「かみく」という答え。
「かみくって?」と聞くと「山梨に印刷工場が出来たんだよね。」という答えだった。
「へ~、そうなんだ。」と思いながら、かみくの印刷工場とやらに到着してみると。
はっきり言ってそこは酷い有様だった。
普通の生活ならあるはずのライフラインがない。
かろうじて電気は発電機でなんとかしているようだったが、水道もガスもない。
トイレは工事現場にあるようなレンタルトイレが並んでいるだけ。
これじゃあ食事も作ることが出来ないなあ。
みんな飲み水はペットボトルに入れて持ってきているんだろうかと心配になった。
印刷ミスをしたかのような大量のロール紙が散乱し、まるで廃墟のようだった。
買い物から帰ってくると広瀬がやってきて、「今やっているワークがあるんだけど、手伝ってくれませんか?」と言ってきた。
これはきわめて異例のことだ。
広瀬はCSIの所属なので、よその部署の人間に協力を要請することは普通は有り得ない。
「ああ、いいよ。何やってんの?」と聞くと、秘密のワークなのでそれは言えないという。
ただ、いつもやっていることをやってもらえればいいだけだという話しだったので、それじゃあ手伝いましょうということで話がまとまったのだが、「遠藤に話しをしなきゃいけないなあ。」と言うと広瀬は答えた。
「もう麻原には許可はもらってあります。」
いったいどういうことだと思ったが、そういうことなら誰も文句を言う奴はいない。
それじゃあ、また後で呼びに来ます。ということで広瀬は帰っていった。