アルヴィンが五歳になった頃。
王都では、同年代の王侯貴族の子供たちを集めた顔合わせのパーティーが開かれた。
貴族同士に付き合いがあれば、その子供たちも自然と顔を合わせる。
普段からお茶会に呼んだり、
一緒に遊んだりすることも珍しくない。
そのため、こうした顔合わせの場も、
「初めまして」
というより、
「同年代の子供たちが集まって交流する場」
という意味合いが強かった。
もちろん、アルにもレオンという
同年代のはいる。
だが、それ以外の子供とはほとんど交流がない。
友達と呼べる相手もいなかった。
つまりアルにとっては、
レオン以外の同年代と会うのは、
これが初めてだった。
「アル、同い年の子がたくさんいるから、
お友達ができるといいわね」
リリア母様が、嬉しそうに言う。
「うん」
アルは満面の笑みで、リリアに笑いかけた。
――苦しー。
友達がいない。
そのことで、リリア母様を心配させている。
これはまずい。
早く友達の一人や二人くらい作らないと。
――でも、どうすればいいんだ?
前世では、子供の頃なら普通に
友達と遊んでいた。
学校にも友達はいたし、子供同士でくだらない話をしたり、一緒に遊んだりもしていた。
ただ、大人になってからは、子供と接する
機会がほとんどなかった。
そして転生してからも、
周りにいるのは大人ばかり。
話す相手といえば、リリア母様やエレナ、
それに王宮の人たち。
同年代の子供と話す機会なんて、レオンくらいしかなかった。
――五歳の子供って、何を話せばいいんだ?
会場を見回す。
同じくらいの年齢の子供たちが、
楽しそうに話している。
――分からん。
これは困った。
――助けて、AI機能!
今まで、あまり使うことのなかった能力。
こんな時こそ頼るべきだろう。
アルは心の中で、AIに助けを求めた。
『こんにちは。どうされましたか?』
相変わらず無機質な返答。
――子供と仲良くなれる方法を教えて。
すると、視界に表示されたARへ、
いくつかの選択肢が並んだ。
【子供と仲良くなる方法】
・簡単な挨拶から始める
・相手の好きなことを聞く
・共通の話題を探す
・一緒に遊ぶ
・相手を褒める
・自分のことを話す
――なるほど。
アルは真剣な顔で、その項目を見つめた。
――いや、分かる。
分かるんだけど……。
これを五歳児相手に、
どうやって実践するんだ?
頭を切り替えて会場を見回す。
同年代の子供たちは、いくつかのグループに
分かれて話していた。
どうやら、すでに仲の良い家同士で
集まっているらしい。
貴族同士の付き合いがあれば、その子供たちも自然と顔見知りになる。
こういう場でも、なんとなく派閥のようなグループができるものらしい。
――入りにくい。
アルには、そこへ入っていく勇気がなかった。
そんな時だった。
少し離れたところに、
一人でいる男の子を見つけた。
――あの子なら。
アルは意を決して、男の子へ近づいていく。
「やあ」
「え?」
突然声をかけられた男の子が、驚いた
顔でアルを見る。
「…………」
「…………」
二人とも黙ってしまった。
――しまった。
何か言わないと。
仕方がない。
こちらから名乗ることにした。
「僕は、アルヴィン・ベルク」
本来なら、ここで相手が名乗るのを待つ。
貴族の子供であっても、挨拶や礼儀は
幼い頃から教えられる。
基本的には、身分が下の者から上の者へ
名乗るものだ。
男の子は少し遅れて、慌てて名乗った。
「ぼ、僕は……カイル・ローディスです」
「ローディス?」
「子爵家です」
「そっか」
――よし。
名乗り合えた。
次は……。
アルは必死に頭を働かせる。
「何してるの?」
「えっと……」
「…………」
「…………」
また沈黙。
――ダメだ。
会話が続かない。
アルはARを見る。
【相手の好きなことを聞く】
さっきのAIの助言を思い出した。
「カイルは、何が好きなの?」
「好きなもの……?」
「うん」
「本、とか……」
「本?」
「はい」
――おっ。
「僕も本は好きだよ」
これは本当だった。
王宮にある本を読むことは、アルの暇潰しの一つになっている。
「どんな本を読むの?」
「えっと……歴史とか」
「歴史かぁ……」
アルは頷く。
――次は何を言えばいい?
【会話継続のため、質問を推奨します】
「えっと……好きな本とかある?」
「……ありますけど」
「どんな本?」
「……」
カイルが少し考える。
その時、ふと父親から
言われていたことを思い出した。
――第二王子のレオン様と仲良くするんだぞ。
――第一王子のアルヴィン様とは、
あまり関わらないようにな。
子供にとって、それがどういう
意味なのかまでは分からない。
ただ、親に言われたことは覚えている。
カイルはアルを見る。
悪い人には見えない。
むしろ、普通に話してくれている。
でも……。
「ごめんなさい」
「え?」
カイルは少し考えたあと、
適当な理由を口にした。
「僕、あっちに行かないと」
「そうなの?」
「うん。父上に呼ばれてるから」
もちろん、そんな事実はない。
「じゃあね、アルヴィン様」
「う、うん……」
カイルは軽く頭を下げ、
その場を離れていった。
アルは、その背中を見送る。
――失敗した。
初めての友達作り。
開始数分で終了した。
【今回の会話について分析しますか?】
「……しなくていい」
アルは小さく呟いた。