「こんにちは」
「……」
「えっと……」
「ご、ごめんなさい」
また一人、離れていく。
「…………」
どうしてだ。
僕、何か変なことしたか?
「こんにちは」
「……こんにちは」
「僕、アルヴィン・ベルクっていうんだ」
「……知ってます」
「そうなんだ」
「……」
「…………」
会話が続かない。
気まずい。
すごく気まずい。
別の子にも声をかけてみる。
けれど、結果は似たようなものだった。
少し話して終わる。
名前を聞いて終わる。
好きなものを聞いたら、答えてくれる。
でも、そこから先には続かない。
――ナンパに失敗する人の気持ちが、転生して分かった気がする。
マジで泣きたい。
そんなことを考えていると。
「アルヴィン様」
突然、女の子から声をかけられた。
振り返る。
そこにいたのは、今まで見た子供たちとは少し雰囲気の違う女の子だった。
銀色の長い髪。
青緑色の瞳。
着ているドレスも、この国の子供たちとは少し違う。
「こんにちは」
女の子は丁寧に頭を下げた。
「私は、ノルディア王国第二王女、ミレア・ノルディアです」
「……王女様?」
思わず聞き返してしまった。
隣国の王女。
いきなり凄い人が来た。
「はい」
ミレア王女は微笑んだ。
「アルヴィン様とは、一度お話してみたいと思っていました」
「そ、そうなんだ」
どうしよう。
王女様と何を話せばいいんだ。
AI、どうしよう!
すると、視界に文字が浮かんだ。
【① 相手の国について聞く】
【② このパーティーについて聞く】
【③ ドレスについて褒める】
【④ 好きなものを聞く】
【⑤ 自分のことを話す】
【⑥ 相手からの質問を待つ】
【推奨:③→④】
よし。
まずは無難に。
「そのドレス、とても綺麗ですね。
うちの国ではあまり見ない作りですけど、ミレア王女によく似合っています」
「ありがとうございます」
ミレア王女は、嬉しそうに笑った。
少しだけ胸を張るような仕草をする。
褒められたことは素直に嬉しいらしい。
でも、頬を赤くしたり、
恥ずかしそうに俯いたりはしない。
王女様だから、こういうことは普段から言われ慣れているのだろう。
――やっぱり王女様だ。
僕なんかとは、慣れていることが違うらしい。
「アルヴィン様は、パーティーは初めてですか?」
「うん。こういうのは初めて」
「そうなのですね」
ミレア王女は少し考えるようにしてから、
口を開いた。
「では、アルヴィン様は私との婚約については、まだ何も聞いていないのですか?」
「……婚約?」
思わず聞き返す。
「はい」
ミレア王女は、当たり前のように頷いた。
「ベルク王国とノルディア王国では、私とアルヴィン様の婚約について話が進められているそうです」
「…………」
初耳だった。
大人たちが何か話しているのは知っていた。
でも、まさか自分の婚約の話だったとは
思わなかった。
「私も、アルヴィン様と仲良くなっておいた方がいいと母から言われています」
「そ、そうなんだ」
どうしよう。
急に話が重くなった。
AI、どうしよう。
【現在の会話を継続する場合、相手への質問を推奨します】
いや。
何を聞けばいいんだ。
そんなことを考えていると、
ミレア王女が僕を見た。
「アルヴィン様のお母様は、
リリア様でしたよね?」
「……うん」
「男爵家のご出身なのですよね?」
「そうだけど……」
「そうなのですね」
ミレア王女は、特に何も考えていないような顔で続けた。
「それなら、アルヴィン様の後援をするのは難しいですよね」
「……後援?」
「はい」
ミレア王女は、当然のことを話すように言った。
「リリア様は男爵家のご出身ですから」
「…………」
「でも、もし私がアルヴィン様と結婚すれば、ノルディア王国がアルヴィン様の後ろ盾になります」
「…………」
「国同士の繋がりもできますし、アルヴィン様のお役に立てると思います」
ミレア王女は少しだけ嬉しそうに笑った。
「リリア様なんかより、私の方がアルヴィン様のお役に立てますね」
その言葉に。
僕は何も言えなかった。
ミレア王女に悪意があるわけではない。
たぶん、本当にそう思っている。
リリアは男爵家の娘。
だから、大きな後援はできない。
でも自分なら、隣国の王女としてアルヴィンを支えることができる。
ただ、それだけの話なのだろう。
だけど。
僕にとっては違った。
リリアは僕の母親だ。
僕を産んでくれた人で。
何度も僕を守ってくれた人だ。
その母親と自分を比べられて。
「私の方が役に立つ」
そう言われた。
その瞬間。
僕の中で、何かが切れた。