転生したのでしょうがなく 06 5人の転生者 | aitocolab ブログ 
ちなみに――

主人公が先ほどまでいた、
役所のような空間。

実は、そこには主人公以外にも
手続きをしている人たちがいた。

ただ、この場所には少し変わった仕組みがある。

意識しなければ、
他人の存在を感じ取れないのだ。

そのため主人公は、
自分以外にも人がいることに
気づかなかった。

すぐ近くに誰かがいても、
意識を向けなければ、
自然と存在が認識から外れていく。

これは、転生を待つ人たちが
落ち着いて手続きをできるようにするための、
ちょっとした配慮なのかもしれない。

そして主人公もまた、
その仕組みのおかげで――

最後まで、
何も知らずに過ごしていた。

本来なら――

主人公が他の人たちに
気づくことはなかった。

もちろん、
逆も同じだった。

ところが今回は、
少し事情が違った。

主人公が莫大なポイントを
手に入れたことで、

受付のおじさんが、
思わず驚いてしまったのだ。

その声や反応に、
たまたま近くにいた五人の女性が
一斉に意識を向けた。

そして――

「あれ?」

「……今、誰かいた?」

「隣の人?」

五人は同時に、
主人公の存在に気づいた。

さらに、
お互いの存在にも気づく。

「えっ、あなたもいたの?」

「そっちも?」

「……五人もいたのね」

そんな彼女たちだったが、
すぐに別のことへ意識が向いた。

主人公のポイント。

その数字が、
どう考えてもおかしい。

彼女たちはそれぞれ、
受付の人から説明を受けていた。

自分に与えられたポイントが、
決して少なくはない。

けれど――

「これ、そんなに多くないよね」

「うん。私もそう思う」

だからこそ、
何にポイントを使うか。

そんなことを考えていた矢先だった。

隣の男性が、
桁違いのポイントを手に入れた。

「……これ、まずくない?」

「かなりまずいと思う」

「だよね……」

もしあれだけのポイントを使って、
とんでもない能力を手に入れたら。

異世界作品でいうところの――

いわゆる、
『俺TUEEE』というやつだ。

しかも、
自分たちも同じ世界に転生する可能性がある。

「下手したら、
あの人一人で世界をめちゃくちゃにするんじゃ……」

「私たちの転生人生まで
巻き込まれる可能性あるよね」

ポイントをどう使うか。

そんなことより、
隣の男性のほうが気になってしまった。

五人の視線が、
一斉にそれぞれの受付へ向く。

そして一人の女性が、
恐る恐る尋ねた。

「あの……」

「はい?」

「隣の男性の方、
何かあったんですか?」

受付のおばさんは、
少しも表情を変えなかった。

「プライバシーに関わることですので、
お答えできません」

「……冷たー」

思わず心の中で呟く。

しかし、
ここで引き下がるわけにはいかなかった。

「でも、もしあの人が
転生先で大変なことをしたら……」

「……」

「私たちも同じ世界に
行くかもしれないんですよ?」

「……」

「何かあった場合、
その責任は誰が取るんですか?」

少しだけ、
語気が強くなる。

すると――

おばさんが、
小さく舌打ちした。

「……はぁ」

そして周囲を確認する。

「分かりました」

「本当ですか?」

「ただし、私から聞いたとは
絶対に言わないでください」

「はい」

「もし言ったら――」

おばさんは、
にっこり笑った。

「次にここへ来たとき、
どうなるか分かりますよね?」

「……え?」

「人間に転生できるとは
思わないことです」

「えー……怖ー」

口ではそう言いながらも、
女性はしっかり聞いていた。

そして知る。

隣の男性が、
あり得ないほどのポイントを
手に入れたことを。

それは、この転生システムにとっても
想定外に近い出来事だった。

女性は少し考える。

そして――

一つの使命感を抱いた。

「あの人が暴走しないように、
私たちがなんとかしないと」

ただし、
一つ問題がある。

「……ポイントじゃ、
絶対に勝てないよね」

「うん」

ならば、
方法は一つ。

もう一度、
交渉するしかない。

「私、あの男性と
同じ世界にしてください」

「できれば、
なるべく近い身分で」

「それと、できるだけ近い地域に」

「私たちが見張りますから」

そして最後に――

「だから、
もう少しポイントをください」

使命感に燃える女性たち。

ただ、その胸の奥には――

『これを理由にすれば、
ポイント増やしてもらえるかも』

という、
ちょっとした下心もあった。

こうして――

主人公が知らないところで、

五人の女性による
小さな作戦会議が始まった。

五人は、少し離れた場所で
顔を見合わせた。

「……ねえ、どうする?」

最初に口を開いたのは、
真面目そうな女性だった。

「どうするって……。
あのポイント、本当に大丈夫なのかな?」

「何が?」

「だって、私たちがもらったポイントとは
桁が違うんだよ?」

彼女は本気で心配している。

「もし、あの人が好き放題したら、
転生先の世界そのものが
変わっちゃうかもしれないよ」

「考えすぎじゃない?」

そう言ったのは、
少し楽天的な女性。

「でも、ポイントが多いなら
いっぱい能力を取れるんでしょ?」

「……まあ、そうだけど」

「だったら私たちも
増やしてもらおうよ」

あまりにも堂々と言うので、
真面目な女性が呆れる。

「なんでそうなるの?」

「だって不公平じゃない?」

「そこ?」

すると今度は、
目を輝かせている女性が口を挟んだ。

「私は、ちょっと楽しみだけどな」

「何が?」

「その人が、どんな能力を選ぶのか」

「……そこを気にする?」

「だって面白そうじゃん。
普通じゃない人生になりそう」

完全に楽しんでいる。

その隣では、
大人しそうな女性が小さく手を挙げた。

「私は……同じ世界がいい」

「え?」

「知らない世界で一人になるより、
知ってる人が一人でもいたほうが
安心するから……」

「なるほど」

そして最後の一人。

彼女はしばらく黙っていたが、
突然、ニヤッと笑った。

「……これ、交渉材料になるんじゃない?」

「交渉材料?」

「うん」

「だって、
あの人が危険かもしれないんでしょ?」

「まあ……そうね」

「だったら私たちが
見張るって言えばいいじゃん」

四人が顔を見合わせる。

「……なるほど」

「それなら、
同じ世界に行かせてもらえるかも」

「ついでにポイントも――」

「増やしてもらえるかもね」

五人の視線が合った。

「……やろうか」

「うん」

「私は賛成」

「私も」

「じゃあ決まりね」

ただし――

五人が同じ方向を向いた理由は、
それぞれ違っていた。

世界のことを本気で心配している者。

ポイントが増えれば得だと思っている者。

主人公の能力に興味津々な者。

同じ世界なら安心だと思っている者。

そして、
この騒ぎを最大限利用しようとしている者。

そんな五人の思惑が重なった結果――

彼女たちは、
主人公の知らないところで、

「隣の男性と同じ世界へ
転生させてほしい」

という、
とんでもない交渉を始めることになった。

当然ながら――

本来、五人の要求が
そのまま通ることはない。

他人の転生先に合わせる。

身分まで近づける。

さらにポイントまで追加する。

そんな都合のいい話が、
簡単に認められるはずもなかった。

しかし今回は、
少し事情が違った。

主人公が手に入れた
莫大なポイント。

それは、この空間にいる人たちにも
衝撃を与えるほどの出来事だった。

だからこそ――

「……分かりました」

おばさんは、
五人の要求を受け入れた。

「本当に?」

「はい。ただし、条件があります」

五人の表情が引き締まる。

「まず、あなたたちには
いくつか制約を付けます」

「制約?」

「ええ」

おばさんは淡々と続けた。

「彼に直接的な攻撃をしてはいけません」

「もちろんです」

「間接的な攻撃も禁止です」

「……はい」

「傷つける、殺そうとする、
追い詰める――」

そこで一度、五人を見る。

「そういったことは、
一切しないでください」

「私たち、
そこまで物騒じゃないですよ」

「そうだと助かります」

即答だった。

少しだけ、
笑顔が怖い。

「今回、あなたたちに求めるのは
彼を討伐することではありません」

「では?」

「抑えることです」

彼が力を持て余し、
何か大きなことをしようとしたとき。

それを止める。

あるいは、
思いとどまらせる。

あくまで、
それだけだった。

そして――

「もう一つ」

おばさんが、
少しだけため息をつく。

「今回、あなたたちに
彼の情報を話したことについてです」

五人が黙る。

「本来なら、
プライバシーに関わることなので
話してはいけませんでした」

「……はい」

「こちらにも落ち度があります」

そう言いながらも、
どこか納得していない顔をしている。

「ですので、あなたたちが
余計なことをしないように
制約を付けます」

「余計なことって……」

「そのままの意味です」

ぴしゃりと言われた。

そして最後に――

「それと」

おばさんは、
五人を順番に見た。

「くれぐれも、
こちらに面倒を持ち込まないでくださいね」

「……」

「あなたたちが勝手に騒ぎを起こして、
『転生課から聞いた話だから』
なんて言われても困りますので」

にこやかな笑顔。

しかし、
目は笑っていない。

五人は揃って背筋を伸ばした。

「……はい」

「よろしい」

おばさんは満足そうに頷く。

そして――

ふと、一人の女性に目を向けた。

「特に、あなた」

「……私?」

「ええ」

おばさんは、
にこりと笑った。

「貪欲なのは悪いことではありません」

「……はい」

「ですが――」

少し間を置いて、

「前世で痛い目を見たのですから、
もう少し自重してください」

「…………」

女性の顔が固まった。

どうやら、
前世のことまでしっかり
把握されているらしい。

「……はい」

さっきまでの勢いは、
すっかり消えていた。

おばさんは、
何事もなかったかのように話を戻す。

「では、以上です」

そして最後に――

「本当に、こちらに面倒を
持ち込まないでくださいね」

にこやかな笑顔。

しかし、
今度は五人全員が理解していた。

これはお願いではない。

絶対に守れ、という意味だ。

こうして五人は、
特別な条件を認められた。

そして、その原因となった主人公本人は――

そんな話が自分の知らないところで
進んでいることなど、

知る由もなかった。