「桜の思い出」

    桜並木を歩く

 

あれはもう何年前になるだろう。君の車椅子を押して深坂(みさか)の溜池に花見に来たのは。

私は桜の花の時期が来るたびに君の車椅子を押して来たとき、また次女の大学入学の時のことが思い出されてくる。 

次女の大学入学で墓参したとき、満開の桜の花を見ながら、丁度私が定年で今までの勤務を辞め、今度は新しい職に何とか就けたがこれからの生活のことはともかく、学資の事が心配だった。しかし君がやりくりしてくれたお陰で何とか卒業させることができた。

そして今、私は君の車椅子を押しながら深坂の池から自然公園の桜並木を往復し、次女が大学に入ったときのことなどを話し合いながら、私が「桜が綺麗だよ」と言うと、見えない目を明けて一生懸命見ようしている。

不自由な体を動かして周囲を見ようとするたびに体が車椅子からずれ、その度に「お父さん、体を起こして」というので体を直してやる、そして喉が乾いたというので、お医者からは止められていたがアイスクリームを一口か二口、口に含ませてやったら喜んでくれた。

しかし君が外出を許されたのはこれが最後だった。

君が元気だった頃はよく言い争いをして、私はよく君を怒鳴ってばかりいて、決して世間で言う仲の良い夫婦とはいえなかった。これは今になって後悔している。このように車椅子を押して君に花見をさせてやれたことで、少しでもその償いが出来たのであれば嬉しい。

当時学資のことを心配していた次女は無事卒業でき今では社会人。その彼女が運転する車で深坂の池に行ってあの桜の下を缶ビール片手に歩いてみようと思っている。



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