千葉編集長が行く
男性の私は、「女性力」の偉大さを感じることが多々あります。それを象徴するのは男性だらけのチームに女性が加わってから、そのチームの雰囲気が和らいで節度が生まれることです。女性は男性社会に不可欠な存在なのです。そのような女性たちがおもてなしを発揮したら唯一無二のお店になる、ということをしみじみと感じた銀座の飲食店のお話です。
スタッフはさまざまな年代の女性のみ
ほぼ3カ月に1度くらいのサイクルで会う女性の友人と銀座で会うことになりました。夕方メッセンジャーで私に「何が食べたいか」と聞いてきたので、寒い夜だったから「おでん」と即答しました。「銀座でおでん」とは、老舗の雰囲気が漂います。
待ち合わせをしたのは、銀座といってもほぼ新橋にあるビルの2階でした。エレベーターの無い小さな古いビルで、路面から階段を上ると、その中腹から異空間に突入するような気配がありました。
階段を登り切ったところにある店の扉を開けると、後ろを通るのがやっとの10席ほどのカウンター席があり、その奥には6人掛け程度のテーブル席があるような気配です。入口近くで友人が私の席を空けていて待っていました。
店のしつらいは古いです。階段側の壁が細かい細工のふすまになっていて、昭和のデザインを感じます。おそらく居抜きです。
反対にカウンターの壁にはお品書きがびっしりとはりつめられています。「定番ポテトサラダ」500円、「ほうれん草おひたし」500円、「タコブツ」680円、「鶏の唐揚げ」850円、「特製ハンバーグ」900円など……値段が普通のものよりちょっと高いかなと気付く前に、店の雰囲気に圧倒されます。
日本酒や焼酎もプレミアムなものをそろえて、利き酒師もいて、お酒と料理とのマッチングを楽しむこともできます。
ここのお店のスタッフは全て女性。全員白い割烹着で頭にバンダナを巻いていますが、20代30代40代50代60代(というような感じで)見事に年齢がバラバラなのです。そして、みなさんはよくお話をします。それは対お客さま、スタッフ同士ともです。
スタッフは全員調理も接客もこなします。料理は彼女たちの手作りです。ですから、料理に格別の期待を寄せていなくても納得のいくクオリティになっています。
初めて来店した私は「お名前はなんとおっしゃるんですか?」と尋ねられて「千葉です」と答えたところ「私の名前は〇〇です。これから〇〇ちゃんと呼んでください」と返ってきました。
店内には自分の名前で話しかけられているお客さまもいて、その方は常連客なのでしょう。スタッフは全体的にぽんぽんと会話が弾むおしゃべりキャラです。年齢に関係なくちょっと朴訥の人は、それだけで「おとなしい人」という印象が刷り込まれます。
人が人を呼ぶ連鎖を生み出す
カウンターで食事をしているお客さまはほとんどが40代50代60代の男性一人客です。彼らは自分の近くにやってきたスタッフに二言三言を語りかけます。おなじみのスタッフがいるようですが、特にご指名とかあるわけでもなく、店の雰囲気を楽しんでいます。
しばらくして私の名前を背中越しに言う人がいました。振り向くと以前仕事で知り合い15年間ほど音信不通になっていた人でした。お互い同業者であることからいつかはどこかの飲食店で遭遇することもあるでしょうが、全く久しぶりのことです。
また、店の扉が突然開いて、少し酩酊している紳士が入ってきました。店の従業員が「〇〇さん、いらっしゃい」と応対している様子に小耳を立てていたところ、その紳士は同店の姉妹店である広尾のお店の常連さんの模様。この店の雰囲気が好きで、広尾で食事をしてからタクシーに乗って銀座にやってきたのだといいます。
「この店とはスナックですか?」
私はスナックの定義をきちんと説明できませんが、この店は料理もお酒も目的となる品揃えをしています。そして、女性のおもてなしを強烈な魅力に据えているものの「プロ」の接客ではありません。石井ふく子プロデュースのテレビドラマを見ているよう気分です。多店化という点では大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。
飲食業のお客さまは物理的に減少していて、それは今後さらに進んで行くことでしょう。しかしながら、この繁盛店はこれからの時代に継続することができる大いなるヒントをもたらしていると感じました。それは属人的ではあるが、実はちゃんとした仕組みが存在して、スタッフもお客さまも「このような飲食店の雰囲気」が大好きな人たちであるということです。「飲食業は人が醸し出す商売」です。
この記事を書いた人
『夢列伝』編集長 千葉哲幸
外食記者歴35年。2017年4月エーアイ出版『夢列伝』編集長に就任し、夢を語り、それを実現するために行動し、日本を元気にする人に出会うべく東奔西走。
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