祈る手よりも助けてくれる手の方がありがたい | 縁切り日記

縁切り日記

都内在住、元夜の世界の住人、現在はアタオカ発達障害、仕事ができなくても、コミュ障でも運だけでなんとか生きているメンヘラ子なし兼業主婦

今から20年程前になるが、私の初めての一人暮らしの部屋は、知人に騙されて住む事になった部屋だった。

 

家賃を安くするからと言われ、知人名義の部屋に又貸しで住む事になったが、蓋を開けたら1円たりとも家賃を引く事はなかった。

 

その上、知人は業者でもないのに礼金敷金もしっかり私から取った。もちろんこれは違法である。

 

最初はそれでも家賃が安くなるなら、結局元は取れるしと思ったけど、実際には・・・・・・。

 

ただ因果応報なのか、数年後に別件で知人の親玉連中は逮捕されて、奴らのある夢は打ち砕かれた。

 

肝心の知人は逮捕はされなかったけど、奴の夢のタワマン最上階の贅沢な生活はもちろんできない。

 

私は騙されて住む事になった部屋を出たくて仕方なかった。

 

当時私は夜の店で、部屋の更新がいつで、今の部屋は知人の紹介で住んだけど(騙されたとは言えず)気に入らないから出たいと何人かのお客に言っていた。

 

そして部屋の更新が近づいたので、新居を探したが新しい部屋は見つからず、私はひとまず知人の家に身を寄せたのだが、その時に驚く事が起きた。

 

知人宅に居候して間もなく、ある客、Tさんから電話がかかってきた。

 

Tさんは当時40代半ばぐらい?バツイチで成人した息子二人がいて、週に二回ぐらい場末のスナックに来店していたお客で、

口は少し悪いが、身体に触ってきたりしないし、支払いはきれいなお客だから上客の方だった。

 

おもむろにTさんは「お前、部屋探していたよな?俺はもうすぐ引っ越すから、俺の引っ越した後に住むか?家賃いくらなら出せる?今の部屋は12万だ、確か8万の部屋に住んでいるよな?オーナーに交渉して8万にしてやる」といきなり言った。

 

驚いた。とにかく驚いたよ。でもさ、12万を8万なんて無理でしょ・・・・・・。

それにオーナーって確かそのお客と一緒に来ていたあの中年男性だよね?もしその部屋に住む事になったら、私の身元が少なくともオーナーにわかってしまう。

オーナーがそのお客に私の身元を話さないとは言えない。それにお客が住んでいる場所はほぼ都心だけど、いまいち不便で好きになれない。

 

「ありがとう、気持ちはすごく嬉しい。でも実はもう知人の家に居候させてもらっているから当分引っ越さないから、遠慮します。本当にありがとうございます。」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

電話を切った後に考えた。もしこの話を受けたらTさんはオーナーに家賃交渉をするだろうけど、まあ下げても12万を11万だろう。私はあの場所は好きでないけど、どちらかというと人気の場所だ。

おそらくだけど、Tさんは契約期間の二年限定で差額を負担して、その間に安い部屋を探せと言うような気がする・・・・・。

 

うん、やはりこういうはお互いによくない。ややこしいし、受けなくて正解。

 

Tさんは1年程前に店で会って、私は全く第一印象はないのだけど、Tさんは「お前、黒いスカート姿でテコテコ歩いてきたやろ、可愛い子だな~って思ったんや。そのくせ話したらすごいし」と言っていた。

 

他の子のお客さんだし、個人的に興味もなく(失礼)フルネームも聞いた事ない。

 

仕事は一応会社員?だが少し怪しい業種で、私が店を辞めた頃に独立したと言っていたような・・・・・。

 

Tさんは他の子のお客なのになぜか私を妙に気にかけてくれて、私が「家賃の支払いが大変で」と何気に言ったら、財布から25000円を取り出し、床に落とした。

 

私が拾って渡したら、「それはお前のもんや」

「え?いやこれは・・・・」

「おまえのとゆうたらおまえのや!!さっさと仕舞わんかい!!」

「ありがとうございます。後で返しますね」

「いらんわ!!」

 

それからTさんはその25000円について、一度も話題に出した事はなかった。

 

Tさんはあの時こうしてやったとか、恩着せがましい事を言った試しがない。

 

もしTさんが30年遅く生まれても、割り勘とかセコイ事を言わないから、婚活なんかしなくても20代半ばぐらいで普通に結婚してるんだろうな。

 

最後に会ったのは、どちらから連絡があったか忘れたけど、私が居候先を出るか出ないかの頃で、居候先の近所の焼き肉屋でご馳走してもらった。

 

焼肉を食べながらTさんは「おまえ・・・・わしと付き合わんかい?」

 

「お友達ならいいですよ」

 

「友達なんかいらんわ」

 

「茶飲み友達いたら楽しくないですか?」

 

「茶飲み相手ならたくさんいるわ」

 

店を出て、「もうお前には会わん、元気で暮らせよ、お前なら大丈夫やな、お前外見と違って図太いからな」

 

そう言ってお釣りの2000円弱を渡してきた。

 

「いつも頂いてばかりだから受け取れないですよ」

 

「ええんや、持ってけや」

 

「・・・・・・」

 

「元気でな」

 

 

それから連絡は本当に来なくなった泣

 

ただこの頃私は携帯を解約新規で2年おきに番号を変えていたので、半年程で変更してしまったけど、もし番号を変更しなければ何年かして連絡がきたのかな・・・・・。

 

数年後、場末のスナックの同僚にまだ来店しているのか聞いたら、もう数年来ていないとの事。

 

私と最後に会った頃に初孫が生まれ、その子はもう成人している(すごい昔話だ・・・・)

 

もしかしたら今頃曾孫がいるのかな?

 

私はTさんに特別愛想を振りまいたわけでもないのに、私が場末のスナックでオーナーと揉めて、半分解雇のような形で退職して、少し離れた場所の店に移った時、退店自体知らせてないのに他の子から聞いて電話をかけてきて

「お、お前店を辞めたんか!?、今どの店にいるんや?〇〇駅の近く?おう、行くわ・・・・」

 

本当に何度か新しい店に来店してくれた。

 

今思うと、お客の中で一番私を気にかけてくれていた人だった。

 

本当に感謝している。

 

でもね、なんとなくだけど、もうTさんは亡くなっているような気がするんだ・・・・・・・。

 

Tさんよ安らかに眠ってください・・・・・・。←勝手に殺すな

 

本当にお世話になりました。何もお返しできなくてごめんなさい。口先だけで何もしない人よりも、実際に助けてくれる数少ない人でした。

もしまだご存命ならお会いしてお礼を言いたいです。

 

樹齢三百年の山茱萸の木