小学生の全国大会の是非について柔道での全国大会廃止に端を発し、将棋と柔道との対比に関するtopstoneさんの見解に感じた違和感について書いたところ、重ねてご見解をいただくことができました。記事を読んでいただいたこと、ありがとうございます。

さきの記事でも指摘したように、為末大さんが柔道の全国大会廃止に賛成とする理由の骨子は、 

「日本では、勝ってスポーツが大好きになった人以外は、大嫌いになる傾向があります。若年層からの全国大会の勝ち抜きシステムが、勝てない子にとって楽しくない仕組みだからです。子どものときに、勝ち負けではないスポーツのおもしろさを感じていることが大事だと思うのです」

という部分にあると思います。私も篠原信さんもこの点では一致していると思ってますし、topstoneさんも『問題は全国大会の有無ではなくて、将棋大会で負けすぎて将棋が嫌になる子をいかに出さないか、だと思います』とあるので、同じ見解なのだと受け止めています。しかしtopstoneさんは全国大会には『ほぼ利点しかない』と肯定的ですが、私は全国大会の実施は将棋の普及にほとんど影響ない、と懐疑的です。topstoneさんの記事を読み進めることで、その違いが身近の環境で将棋大会に参加する層や、母体となる小学生数が6倍あまり違うこと(県単位)にあるのではないかと思い至りました。

 

私の住んでいる愛知県内には至近の名古屋市で東海研修会が運営されており、5〜60名が在籍しています。大会の上位に勝ち進む子はほとんどそういったいわゆるガチ勢で、棋力が低めの子は大会に興味を持ったとしても2, 3回出ればほとんど勝てないと知って足が遠のき、大会に参加するメンバーは固定化しているように見えます。私からすると大会とはすでに将棋が好きになったガチ系の子が参加するものであり、これから将棋をはじめて間もない初級レベルの子に参加を勧められる大会は見た目ほど多くはありません。

 

それだけ強い子が多いなら、さぞ将棋の普及が進んでいるのだろうと思われるかもしれませんが、テーブルマークこども大会の参加者数は低迷傾向にあり、うまくいっているとも思えません。そのため、従前の「将棋教室 + 大会」という将棋普及の伝統的なアプローチとは違う取り組みが必要と私は考えています。

 

小学生の運動機会を増やし、地域の集まりや子ども会で普段から楽しんでもらうことを目指して開発されたスポーツ鬼ごっこという競技があります。じつはこの鬼ごっこも、柔道と同様に全国大会を廃止したことが報じられています。全国大会を4, 5回つづけた段階で、少しずつ「勝利至上主義」の兆候が芽生え、競技本来の楽しさが失われるとの問題意識から全国大会を廃止するいっぽう、楽しむことを主眼にした「鬼ごっこリーグ」が創設されています。似たようなアプローチ例は先に紹介した高校野球のリーグ戦やラグビーの事例もあって、成績上位者を選抜する方式ではどうしても「勝てない子にとって楽しくない仕組み」から脱却することはできないとの諦観が私にはあります。これは将棋にかぎらず、日本のスポーツ界に共通の課題です。それでも先進的な取り組みを進めている一部のスポーツ種目で改善の兆しが見えるので、将棋界における大会もその流れに倣っていくのがうまいやり方なんじゃないかと思っています。

 

将棋の楽しさというものは強い人だけのものではなく、そう強くなくても楽しめる共通の要素があるし、勝敗以外のそうした要素をどうしたら棋力に関係なく経験できる場がつくれるか?という視点で、従来方式の大会に依存しないスポーツマンシップを尊重する将棋普及の地域での場づくりに私は取り組んでいます。大会運営の省力化や大会のあり方については別に書いてみようと思います。