前回は筆者の中学生時代に、環境の変化で学校の成績がずいぶん変わった体験について書きました。今回は社会人になってからの経験について書いてみたいと思います。

 

私は今で言うプライム上場の大企業と中小企業の両方で、社員として働く経験をしています。どちらでも機械系技術者(製品設計職)として働いていましたが、大企業には大企業なりの良い環境と良くない環境・中小企業にも同様の環境の違いがあると感じています。

 

ひとつの例として特許があります。設計・開発業務をしていると、何かしら独自の機能アップのためのアイデア・発明が生まれ、優れたものは多少コストをかけてでも知的財産として特許化のため、文書化して出願手続きを進めることになります。大企業では特許出願に関わるインセンティブ(報奨金制度など)が充実しており、そのような環境に押されて多くの特許出願ができた一方、中小企業ではそこまで特許出願に重きをおいてないこともあって出願はずいぶん減りましたし、私だけでなく技術者一人あたりの出願件数も明らかに低位になってます。「技術者の仕事は単に図面を書くことではなく、その図面にいかに新しいアイデアを盛り込むかが本質(付加価値)である」などと語られることは一般的によくあることですが、その意味では大企業のほうが良い環境にある、と言えます。

 

一方で資格取得に対するインセンティブは、中小企業のほうがすぐれた面もある気がしています。会社にもよりますが、私の在籍した大企業では、役職者の昇進要件として英語力は課されていましたが、品質管理(QC)検定などの技術スキルに関しては特に要件がなかったので、QC2級も持ってない役職者が多数派でした。ところが転職した先の中小企業では社内教育制度の弱さは確かにあるのですが、役職者への昇進要件として社外の技術・技能検定を取得することが定められていることもあり、技術系役職者のQC検定2級以上の取得率は明らかに高くなっていました。たとえ教育制度が弱くても昇進要件などの環境を整備することで管理職に職位に応じた資格取得を課すことで勉強する環境が整備されているともいえますし、社外で通用する資格を保有していることは転職時に強みとなるので、その意味では中小のほうが優れている面もあると感じます。

 

以上は私の数少ない在籍企業の経験にすぎないので、大企業vs.中小 というよりは、個々の会社の技術系人材に求める考え方の違いというほうが適切かもしれません。いずれにしても、会社は必要とする人材を育てるためにただ「意識を高くもて」「頑張れ」「努力しろ」社員にハッパをかけるだけでなく、必要な能力を獲得するように努力するインセンティブを与える環境整備によって社員が自然に取り組む仕組みづくりをしているといえます。

 

こうしたことから、「環境」が重要というのは単に私の個人的な考えというだけでなく、組織の制度設計にも活用されている普遍性のある考え方と思うのです。