その後、翔と連絡を取ったけど、新入社員は忙しいのだろう。
なかなか会う時間が取れない。
「何か急用?」
どうやら詳しい事は翔の耳には入っていないようだ。
それなら今はそっとしておこう。
新入社員は仕事に慣れるだけで一苦労。家庭の事で心配はさせたくない。
とりあえず俺が出来る事をやろう。
さて、なにから手を付けようか。
雅紀のおじさんに直接聞いても良いのだけど、ここは周りから探るかな。
カメが言っていたおじさんの中では一番信頼できるという潤のおじさんと会う事にした。
潤には内緒で呼び出して外で会った。
静かな喫茶店でまずは潤が迷惑をかけていないか聞いて、お世話になっているお礼を言う。
改めて話してみると可なりの話好き。おじさんが上機嫌に話すのを一通り聞いてから本題に入る。
「父がMおじさんに借金をしていたと聞いたのですがご存知ですか?」
「お父さんがMさんに?それ誰から聞いたの?」
「雅紀の様子を見に行ってくれた人が本人から聞いた事です。
借用書もありました」
スマホで撮ってもらった借用書を見せた。
「これを智くんは実際に見たの?」
「俺は見ていないですけど知人が見ています」
「借用書なんてその気になれば幾らでも偽証できるからね。
一度、専門家に見て貰った方が良いよ」
「それでは借金は噓ですか?」
「確証はないけど逆は聞いた事がある」
「逆?」
「お父さんがMさんにお金を貸していたと言う事だよ」
「本当ですか?」
「あそこお店をやっているのは知ってる?」
「はい」
「今では繁盛しているみたいだけど、一時期危ない時があって親戚に借金を求めてきた。
うちにも来たけど断った。こっちの生活もあるからね。それに返って来ない予感がしたんだ。
でも君のお父さんは優しかったからね。貸したと言う話は聞いた事がある」
「調べる方法はありますか?専門家に頼むとしても何処に頼んだらいいのかわからなくて…」
「知人の弁護士を紹介しようか?雅紀くんも働いているんだよね。
もう義務教育は終わっているから法律上は問題はないけど、
学校へ行かせられない状況ではない筈だ。この間、潤も働かされてきたみたいだから、
それを理由に訴える事も出来る。弁護士に任せて見れば良いよ」
翔に相談してからとも思ったけど、雅紀を早くあの環境から救い出してあげたい。
俺はおじさんにお願いすることにした。
話をしてみてこの人なら信用できると俺も思ったからだ。
その場からおじさんはすぐに何処かへ連絡していた。
「なるべく早い方が良いだろう。いつなら弁護士と会える?
それとMさんの家に行ったと言う人にも立ち会って欲しいそうだ」
「わかりました。連絡してみます」
俺もその場でカメに連絡を取って予定を聞いて、弁護士と会う日程が決まった。
とにかくやる事が早くてすぐに動いてくれるので助かった。
雅紀の事は少し先が見えたので、カズの事を聞いてみる。
「あそこも変わり者だからな。余計な事に金は使わない。
だけど子供を働かせるような事はしないよ。見栄っ張りだからね。
そう言う意味ではそんなに心配はいらないよ。
近所だから何かあれば俺の耳にも入るだろうし、そうしたら教えるよ」
「すみません。よろしくお願いします」
それからまた少しおじさんの話を聞いてから別れる。
少々話し好きという事を覗けば、このおじさんは安心だ。
ただおじさんの話を途中で遮ったらへそを曲げて話してくれないかもしれない。
だから扱い方を間違えなければ味方になってくれるだろう。
改めて潤は心配なさそうだと少し安心して帰って来た。