智
弟たち3人が出て行った後、家を売って俺と翔は別々に暮らし始めた。
土地は借りていて家だけなので大した額にはならなかったけど、
それは俺達の引っ越し代と僅かだけど貯金に回した。
今まで5人兄弟で賑やかだった生活が一気に寂しくなった。
でも、昼夜関係ない仕事をしている俺にとっては誰にも迷惑をかけないし、
家で色々と練習が出来るのでやりやすくはなった。
どんな髪型にしようとどんな格好にしようと誰からも文句は言われない。
快適だと思ったのは最初だけ。家に帰っても誰もいない寂しさがたまらなかった。
俺は弟たちが出た後は、あの家で翔と二人で暮らす予定でいた。
その方が余計なお金もかからないし、弟達のいざと言う時の居場所にもなれる。
時々帰って来られる場所は用意してあげたかった。
だけど翔が反対した。
「いつでも帰ってくるところがあると甘えてしまう。
それにこの家は思い出がありすぎる。兄弟もバラバラになるのだから
家もなくした方が良い」
そう言った後に更に付け加えた。
「それに俺は兄さんと暮らす気はない」
この言葉は少しショックだった。
合わないのはわかっていたけど、そんなに嫌われていたのかと思った。
実際、別々に暮らすようになっても、弟たちの近況は頻繁に知らせて来るけど、
自分の事は殆ど話さないし俺の事も聞いて来ない。
でも俺達の関心事は専ら3人の弟たちのこと。
最初の頃は「よくしてもらっているみたい。楽しくやっているみたい」と言う言葉を信じていたけど、段々とおかしいと思うようになったのは、翔から聞かされる事と潤が時々LINEなどで知らせてくる事が矛盾していると思うようになった。
潤には家を出ていく前日に仕事場に来た時に、
「メールには嘘は書くなよ」と話していた。
俺達に心配させないようにわざと楽しく書いてきそうな気がしたからだ。
小学生の潤にはそこまで思いつかなくても、雅紀あたりなら弟たちに言っていそうだ。
常に俺達に気を遣う奴だから、弟たちが余り愚図らずに親戚の家に行ってくれたのも
雅紀が説得してくれたのだと思う。
だからこそ、俺は潤には敢えて「嘘は書くな」と言っておいた。
それだけに潤のLINEやメールに嘘はないと思う。
それを信じる限り、そんなに楽しく生活している訳ではなさそうだ。
第一、頻繁に会えるようにと同じ地域内にして貰ったカズと潤も会わせて貰えないと言う。
ただ、ここで俺が「約束が違う」と文句を言えば困るのは弟達だ。
だから潤には言いたい事は全てメールや、時々電話で吐き出させるようにしていた。
一番本音を言ってくれるのは潤だからだ。
ただ3人の中では潤はまだ恵まれている方みたいだ。
心配なのは同じ地域内にいるカズだ。
詳しい事はわからないけど、カズが一番楽天的な事を書いてくる。
「遊園地へ行ったとか」「おいしい物を食べたとか」、その頻度が凄く多い。
元々お金持ちの家ではあるから翔は信用しているけど、それが全て嘘だとしたら
何かがカズの中で起きているのではないかと思うと心配だ。
だから潤に聞いてみた。
「中学生になったらカズと同じ学校に通えそう?」
「わからない」
確か同じ学区内だった筈だ。
今のところ潤が私立を受験するとは聞いていない。
同じ学校に通えれば少しは情報が得られるけど、二人を会わせるのを
反対しているようではわからない。
とにかく今は弟達に出来る事を俺なりにやって行こう。