続・付き人奮闘記 97 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

思い切って話し出したものの二人の反応に話が止まってしまった。

これは自分で話すにはちょっと辛いかな。

 

「樹、俺が知っている限りの事を話しても良い?」

 

「すみません。お願いします」

 

「実は樹は隼人と正式には同期ではないんだ。デビューはもっと早くて15歳の時。

 前の事務所ではなくて他の事務所から4人グループでデビューしている」

 

でも、そのグループは僅か1年で解散。その後にまた4人のグループを組んだ。

当時、樹は16歳だけど他の3人は20歳を過ぎていた。

グループ経験があったのは樹だけで、そんなプライドと少し生意気盛りもあって

他のメンバーとうまく行かなかった。

いつの間にかグループの中で一人だけ仲間外れにされて、楽屋でも3対1のような

状態でいじめに近い事があった。

多分、マネージャーもグルだったのだろう。一人だけスケジュールを知らされなかったり、

いつの間にか自分のパートがなくなっていたり、精神的に可なりボロボロになった。

 

 

「どうして大野さんがそんな事を知っているんですか?」

 

風磨が聞く。まあ当然の疑問。

 

 

「一つはうちのプロジェクトとして取る予定だったから潤が徹底的に調べたというのと、

 樹だとは知らなかったけど、俺は当時マネージャー仲間からこの話は聞いていたんだ」

 

「え?」

 

この事は樹も知らない。初めて話す事だ。

 

「樹が所属していた事務所に知り合いのマネージャーがいて、

 せっかく良い素材をここで潰すのは可哀想だと相談されて、ちょうどうちの事務所で

 オーディションをやっていたから、事務所を変えるのも一つの方法だと言ったのは俺。

 でも、俺の介入はここまで。オーディション受けて合格したと言うのまでは聞いたけど、

 名前も知らなかった」

 

黙って俺の話を聞いていた樹が口を挟む。

 

「僕の我儘のせいだとは言ってもあの頃は辛かったです。

 それこそ誰も信じられなくなって本当に事務所を辞める寸前でした。

 僕も人間不信になりかけたんです」

 

「俺が他の事務所の子の事に口を出して、それでうちの事務所に移ってきたと聞いて

 本当は気になっていたんだ。余計な口出しをしたんじゃないかってね。

 俺に一人の将来ある若者の人生を変える責任なんてない。

 だから敢えて名前を聞かなかったし、怖かったんだと思う」

 

「あの時の子だと知ったのはプロジェクトの候補になってからですか?」

 

「だからそれを知った時、俺は一度樹を入れる事を反対しているんだ」

 

「どうしてですか?」

 

「プロジェクトの候補になっていると言う事は順調に来ている訳ではないってことだろう。

 解雇寸前なのか仕事が余りないのか、どちらにしても会社を移ってもうまく行かなかったんだ

 と思ったら、約10年間を無駄にさせてしまったようで会うのが怖かった」

 

「僕は事務所を移って良かったと思ってます。

 スタッフも優しくてユニットを組むのを怖がっていた僕にソロでやる事を提案してくれて

 暫くソロでやってました。それから期間限定のユニットを経て、最後が二人のユニット。

 これは5年近く続きました。活動は楽しかったですよ。

 結果的には空中分解してしまいましたけど、相手とは今でも交流があります」

 

これはマネージャーと揉めたのが原因だと前に言っていた。

 

常にタレントの一番近くにいるのがマネージャーだ。

若い頃は一番身近にいる大人と言う事になる。

だから若い頃は特にマネージャーとうまく行かなければ居づらくなるだろう。

 

最近は偉そうなマネージャーも多い。威張ってばかりでタレントを下に見ている。

「マネージャーの会」と言うのがあって色々な事務所のマネージャーが集まる。

俺も初めて翼を受け持った時に1度だけ参加したことがあるけど、

タレントの悪口や愚痴が多くてそれ以降は参加していない。

 

勿論、良いマネージャーもいる。

でも隼人や樹のように一度嫌な思いをしている人は、なかなか心を開いてくれない。

 

隼人は未だに俺を振り回す。信じてはくれているのだろうけど、時々我儘も出る。

 

樹も隼人の人間嫌いを知らなければこの話はしなかっただろう。

まあ、殆ど俺が喋ったようなものだけど、それでも良い。

昔の嫌な思い出を話してくれただけでも大きい。

 

苦労している人間は似たような境遇の人に優しい。

樹が隼人の事を気になったのもそのせいだろう。

 

「樹も大野さんの事は知らなかったの?

 自分に新しい会社のオーディションを勧めてくれた人だってことを…」

 

「知りませんでした。オーディションを勧めてくれた人も何も言わなかったですし、

 だからずっとその人が恩人だと思ってました」

 

樹の言葉に俺は頷いた。

 

「それは間違いではないよ。俺は無責任に口を出しただけ。

 実際に動いてくれたのは彼だから」

 

「ありがとうございました」

 

樹が丁寧に頭を下げた。

 

その言葉に全ての思いが詰まっているような気がした。

 

改めて樹を新しい会社に連れてくることを賛成して良かったと思った。

 

 

さあ、樹の話は終わった。

後は風磨だけ…。

 

でも彼が一番わからない。

一番順調に来ていると思っていたし、俺の中では優等生だ。

 

だけどそもそも何の苦労もしないで来た人なんていない。

見た目は順調に見えても、風磨自身がどれだけ苦労しているかはわからない。

周りにそう言う事を見せる奴ではないから尚更だ。

 

 

それとさっきのイライラは気になる。

滅多にあんな表情は見せないのにどうしたのだろう。