雅紀
父親が亡くなった。
母も亡くなっているけどまだ物心つく前だから覚えていない。
だから顔も仏壇に飾ってある写真でしか知らない。
だけど父まで亡くなったのはショックだった。
それでも兄弟5人で助け合ってやっていけば大丈夫だと思っていた。
でも、その夢が壊れた。
葬式が終わって直ぐに親戚の人達と兄が集まって俺達兄弟3人の行き場所を決めだした。
兄弟がバラバラになってしまう。
僕は5人兄弟の3番目。上に兄が二人、下に弟が二人いる。
8歳違いの一番上の兄ちゃんは僕から見ても少し変わった人。
おしゃれが好きでアクセサリーを付けたりして、まるで女性みたいだ。
7歳違いの2番目の兄ちゃんは勉強ばかりしている真面目な人なので、
二人がよく喧嘩をしているのは昔から見てきた。
でも僕はどっちの兄ちゃんも好きだ。
だから兄ちゃんとも弟二人とも離れ離れになるなんて嫌だった。
だけど僕達を育てられないと言われれば僕達には何も言えない。
嫌がっている弟二人を納得させるのが僕の役目だと思った。
「離れ離れになってもいつでも会えるよ」
「でも僕は5人で暮らしたい」
末っ子の潤はまだ小学生。4番目のカズも中学1年だ。
この年で両親共亡くして兄弟バラバラになるのは可哀想だ。
だけど二人がぐずれば兄ちゃん達が困る。
「兄ちゃん達はもっと辛いと思うよ。
だから僕達はわがままは言わないで兄ちゃん達の言う通りにしよう」
「マサ兄ちゃんはバラバラになっても良いの?」
「嫌だよ。そんなのみんな嫌に決まっている。
だけど5人では生活できないんだよ。もし親戚の家に行くのが嫌なら
施設にあずけられる事になるかもしれないよ」
「嫌だ」
「だったらおじさんやおばさんの家に行った方が良いと僕は思うよ」
施設にあずけられると言うのもウソではない。
実際にそう言う話も聞いた。それなら親戚の人達の方が良い。
その後、あずけられる所が決まって、カズと潤は近くだと言うのがわかった。
「良かったね。この近さならよく会えるよ」
「兄ちゃんは遠くなっちゃったね」
「僕は大丈夫」
なぜか僕だけが一番遠くなった。
兄さん達とも簡単に会える距離ではない。
寂しかった。どうして僕だけ……。
兄ちゃんにはよく「雅紀はしっかりしているから大丈夫だね」と言われてきた。
でも、本当は大丈夫なんかじゃないよ。僕は人一倍寂しがり屋だ。
弟たちのようにもっと甘えたりわがままを言いたかった。
僕は半分見捨てられたのではないかとこの時に思った。
だから高校は以前からばくぜんと考えていた学生寮のある学校に決めた。
なるべくお金のかからないように、僕は一人でも生きて行かれる道を選ぶ。
幸い家庭教師も付けて貰った。
メールには凄く優秀な家庭教師と書いたけど実際は近所の大学生。
お金がかからないと言う理由からだ。
兄ちゃん達へのメールやLINEには明るい事しか書かないと決めていた。
それはカズと潤にも伝えていた。
「兄ちゃん達が心配することは書かないんだよ。
少しぐらいウソが入っても良いから明るい事だけ書こうね」
ふたりが大人しく頷く姿に胸が痛んだ。