弟3人は俺がこの家から送り出した。
雅紀はさすがに来年は高校生と言う事もあって、少し寂しさはあるだろうけど
明るく「行ってくるね」と、まるでその辺に買い物にでも行くような感じで出て行った。
中1のカズは少しぐずるかと思ったけど、直前までゲームをしていた。
兄の話は一切しない。話をすると寂しくなるのかもしれない。
迎えが来る直前までゲームをやっていて、迎えの車に乗り込んで直ぐにゲームを始めた。
俺には黙って手を振っただけ。不甲斐ない兄貴二人を怒っているのかもしれない。
一番手こずったのは末っ子の潤だ。
潤は兄の真似をするほどに兄が好きだった。
昨夜もギリギリまで待っていたし、今朝も玄関で見送った後に追いかけようとしたのを
俺が止めた。兄から止められていたのもあるけど、あれだけ冷たくされてもまだ兄が
好きなんだと、俺は少し驚いていた。
暫く「兄ちゃん、兄ちゃん」と玄関で泣いていたから、
「潤、もう諦めな。兄さんはお前達を捨てたんだよ」
少し意地悪な事を言ったら、凄い顔で俺を睨んで「違う!」と叫んで自分の部屋に閉じこもった。潤の迎えは都合で夕方になると聞いていた。
俺は3人の弟の中では潤が苦手だった。
兄を慕って同じ格好をしたがったり、気性も一番荒くてカズとはよく喧嘩になっていた。
この二人は同じ町内に引き取られる事になっている。
同じ地域に行くのなら一緒に連れて行って欲しいと思ったけどそうもいかない。
潤は迎えが来るまで自分の部屋で過ごして、そのまま出て行った。
「元気でな」と言った俺に黙って頷いただけ。
玄関を出る時に「兄ちゃんによろしく」と言って出て行った。
結局は兄ちゃん。見送って上げたのは俺なのに、雅紀以外はカズも潤も兄を思っていたのだろう。あんなに何もしない、弟の事など考えもしない人の何処が良いのだろう。
俺ばかりが心配しているみたいでバカらしく思えた。
でも、泣かないで行ってくれた。大騒ぎになるかと思っていたから
なにはともあれ、それだけはホッとした。
二人で見送っていたら泣いていたのかな。
まさか兄さん、そこまで読んでた?
そんな筈ないか……。
翌日にはさっそく下の二人からメールが来て、家が凄く大きいとか、個室に住めるとか、
嬉しそうな文字ばかりが並んでいる。
「良かった」と思う反面、もっと寂しいとか帰りたいとか言ってくるかと思ったのに、
そんな気配もなくてこっちが肩すかしを食らった感じだった。
でも楽しく暮らせているなら良かった。
雅紀も高校受験の為に家庭教師を付けて貰ったそうで、
「高校に行ったら寮生活をする」と言っていた。こいつだけが堅実だ。
だけど後の二人はなんだかふわふわしていて心配だったけど、潤はまだ小学生だし
いきなりしっかりしろと言っても無理だろう。
新しい家が心地よさそうだから、そこで伸び伸びと成長して欲しい。
でも、まだ始まったばかり。これから新しい学校へ行くようになったら色々と出てくるかも
しれない。その時には俺がしっかりと受け止めないといけないと思っていた。
兄が陰で親戚と頻繁に連絡を取っている事は知らなかった。
だから兄は当てにならない。これからも3人は俺が守ると思っていた。