葬儀が終わると今度はこれからの俺達の生活の事で兄と揉めた。
俺は何とかして5人で今まで通り暮らして行く事を考えていたのに、
兄が勝手に下の弟3人を親戚に預ける事を決めた。
「兄弟をバラバラにするの?」
「仕方ないだろう。それともお前が育てて行かれるのか?」
難しいのはわかっている。兄も社会人1年目だし俺はまだ大学生。
でも生活保護とかそういうのを利用できれば、それと兄がもっと堅実な仕事に変えてくれれば
俺も来年から働けるし何とかなるような気がした。
でも兄は仕事を辞める気はないし、最初から5人で暮らすのは無理だと諦めている。
何度も説得したけど無駄で終いには、
「働いてもいない奴にとやかく言われたくない。
そんなに5人で暮らしたいなら翔も大学辞めて働けよ」と言われた。
俺の言っている事はそんなに無茶な事なのかな。
確かに今は俺は仕事はしていないけど、卒業制作の合間を縫ってバイトを頑張っているし、
春になれば就職できる。大手の企業なので兄よりは安定した収入を得られる筈だ。
そうやって二人で真面に働いて行けば5人で暮らすことも可能だと思ったのに、
結局は親戚の人達にまるめこまれて3人を預ける事になってしまった。
真ん中の雅紀は中3なので理解はしているだろうけど、一番下はまだ小学生だ。
こんなに小さいのにもう家族と別々に住まなければならないのか。
なんとか止める方法はないだろうかと考えたけど、
兄がどんどんと受け入れ先を決めてしまって俺は何も出来なかった。
そして決まったと思ったらすぐに引っ越し。
「そんなに早く?少しは5人でいる時間を作ろうよ」
「早い方が良いんだよ。長引けば余計に行きづらくなる。
学校も変わるんだから慣れさせる為にもその方が良いんだよ」
「兄さんはどうしてそんなに冷静でいられるの。
もう5人では住めないんだよ。だったらもう少し時間を作ってあげても良いじゃん」
「時間を作って思い出作りでもするつもりか。
別に一生会えなくなる訳じゃないんだから」
やっぱり兄とは意見が合わない。
俺の言う事など何一つ受け入れてくれない。
そして、とうとう5人では最後の夜だと言うのに、兄は今まで通り仕事に行った。
「最後なのだから休んで」と言ったけど、「そんなことくらいで休めない」と言われ、
終いには「お前は大袈裟なんだ」と言われる。
兄弟がバラバラになるんだよ。最後の日くらい一緒に過ごしたいと思うのが大袈裟なのか。
結局、兄にとっては弟の事より自分の方が大事なのだ。
夕食はお寿司を取って4人で食べた。
弟たちは「サト兄ちゃんは?」と、寂しそうに聞いてくる。
みんな今日が最後だとわかっているから、いつものように騒がないし、
下二人は時々泣きながら食べている。
下二人は寝る間際まで「兄ちゃんを待つ」と言っていたけど、
結局、眠気には勝てずに寝てしまった。
こういう日くらい早く帰ってきてくれないかと少し期待したけど甘かった。
少しでも弟達にすまないと言う気持ちがあるのなら、今日だって仕事は休んでいる筈。
俺だったらそうしてた。そうして5人で何処かへ出かけたいと思っていた。
兄の言う思い出作りなのかもしれないけど、暫くは会えなくなるんだ。
もしかしたら、もう5人で住むことは出来ないかもしれない。
俺がセンチメンタルなのか、兄が冷たいのか……。
俺には兄が冷たいとしか思えない。
結局、いつも通り深夜に帰ってきて、翌日も弟たちを見送りもせずに行ってしまった。