続・付き人奮闘記 92 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

俺が潤と話をしていたほんの僅かな時間に決まってしまった。

 

どうしてこの曲になったのかスタッフに聞いても

 

「この曲なら田中は詳しい。デビュー日の予定を考えるとこれがベスト」

 

そう言われた。

 

「3人は納得していませんよ」

 

「納得させるのがあなたの仕事でしょう?」

 

「それにしても候補にもなかった曲です。

 それに30歳近い彼らに10代の頃の歌を歌わせるのは無理があります」

 

「そうかな。田中を覗いてはレベル的にはこの曲でも難しいでしょう」

 

 

このレコード会社は俺はよく知らない。

スタッフも若手が多くて考え方が付いていけない事が多い。

本当は翼と同じレコード会社にしたかった。あそこなら俺の昔からの知人もいる。

でも今回は既に樹がここに所属していたのでここに決まった。

 

樹がユニットでデビューした時に出来たレコード会社。

だから樹の事はよく知っているけど、他の二人には少し冷たい。

歌手としては素人みたいなものだからだ。

 

 

俺は潤に電話して事情を話してなるべく早く来てもらうように頼む。

 

「わかった。だけどそのデビュー曲は俺も承知できない。

 智の方で却下して良いよ」

 

「うん。一応3人と話してみるよ」

 

3人がいる部屋へ行ったら、樹を中心にデビュー曲になる予定の歌を練習している。

この3人はどうしてこんなに素直なんだろう。

この歌になる事に納得はしていない筈なのに、もう仕方がないと思っているのかな。

 

3人共この世界に入ってから10年以上は過ぎている。

良い時も悪い時も経験している。

その経験の中で自分達の意志だけでは動けないこともわかっている。

 

物わかりが良すぎるだろう。もっと反発しても良いのになぁ。

でも、それぞれの立場に立つと気持ちはわかる。

風磨はソロとしても活動は出来ているけど、樹と隼人は不安定な状態だ。

特に隼人は謹慎明けの大事な時期。これ以上の我儘は言えない。

それでもせっかくの歌手デビューだ。納得のいく形でやらせてあげたい。

 

 

「その歌は練習しないで良いよ。デビュー曲にはならないから」

 

「だったらデビューはどうなるの?」

 

隼人が真っ先に聞いてくる。

 

「もうすぐ潤が来るからスタッフと話し合ってくれると思う」

 

「社長自ら来られるんですか?俺達がもたもたしていたからですよね」

 

「潤は元々別の用事で来る予定だったんだ。それをついでに俺が頼んだんだよ。

 だから3人には関係ない。それよりもどうして練習してたの?あの曲で納得したの?」

 

俺の問いかけに3人で顔を見合わせて樹が答える。

 

「納得はしていないです。でもいつまでも延ばす訳には行かないですし……」

 

「俺は納得のいかないままやるなら、デビュー予定が少しくらい延びても良いと思ってる」

 

「良いんですか?そんなこと…」

 

「だって納得のいかないままデビューしてやっていかれるの?

 これから3人で活動していくんだよ」

 

こんな事で本当に大丈夫なのかなと思っていたら隼人が言った。

 

「一つだけバカなこと聞いて良い?」

 

おかしな聞き方をするなと思いながら答える。

 

「良いよ」

 

「デビュー曲ってそんなに大事なの?」

 

「隼人はそうは思わないの?」

 

「だってこれからどれだけCDを出すかわからないけど、その中の1枚でしょう。

 最初の曲だからってそこまで神経質になる必要があるのかな。

 デビュー曲で方向性が決まると言っていたけど、音楽の方向性なんて年数と共に

 自然と変わるものじゃないの?これから曲が増えていけば無理してデビュー曲だからって

 歌わなければならないこともないと思うんだけど……。やっぱり無責任かな」

 

 

一概にバカな質問とも無責任とも言えない。

如何にも最近の子の考え方と言う気はするけど、そう言うのも有りなのかな。

 

「だとしたら、この曲でも良いの?」

 

「うん。これだったら俺でも歌えそうかなと思う」

 

結局それが理由?

 

 

 

「なにバカな事を言ってんだよ。最初から楽な事を考えてどうするんだ。

 そのデビュー曲は却下してきたから」

 

突然聞こえてきた潤の声。

 

座っていた風磨と樹はすぐに立ち上がるけど、隼人は潤の声に驚いてそのまま聞く。

 

「ええ!断ってきちゃったの?」

 

ため口だし…。

 

風磨が注意して漸く気付いたのか、

「ああ、社長だ。すみません」と言って慌てて立ち上がる。

 

「とにかくもう一度スタッフと話し合う事にしたから一緒に来て」

 

「はい」

 

3人が潤の後を付いて行く。

 

潤が来たのだから俺はここで待っていても良いかと思って、

 

「俺はここで待ってるよ」と言ったら、

 

「なんで?」

 

隼人が非難めいた声で聞く。

嫌、お前にそんな声を出される覚えはないんだけど…。

 

「社長が来たんだから俺は必要ないだろう」

 

「マネージャーは常にタレントと一緒にいるものじゃないの?」

 

「今回は社長がいるんだから、社長に任せれば大丈夫だよ」

 

「だけど……」

 

 

「智も一緒に来て。今までの経過も知りたいから」

 

そう言って潤が俺の傍に寄ってきて囁く。

 

「急に突き放すような事はしない方が良い。3人が不安になる」

 

「だけど……」

 

「俺に気を遣ったつもりだろうけど、そんなのは不要」

 

「潤」

 

「隼人が言ったようにマネージャーは近くにいて欲しいんだよ。

 特に智のようなマネージャーにはね。タレントに寄り添うのが信条なんだろう。

 だったらこういう時こそ傍にいないとね」

 

 

社長になって益々頼もしくなった潤。

 

そうだね。今はなるべく3人の傍にいるよ。