続・付き人奮闘記 87 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

菊池の言葉に隼人の声のトーンが落ちる。

 

「わかってるよ。だけどLINEの一度だけでも良いから欲しかった。

 毎日、たくさん届くメールやLINEの中に樹の名前がないか探していたんだよ。

 俺も心細かったから知っている名前を見て安心したかった。

 見捨てられていないと安心したかったのだと思う」

 

 

田中は最早食事にも手を付けなくなった。

何も今ここで田中一人に嫌な思いをさせる事はない。第一、田中は間違ってはいない。

 

こっそり田中にLINEをする。

 

「帰りたかったら帰っても良いよ。これは単なる隼人の我儘だから」

 

「いいえ。大丈夫です。ありがとうございます」

 

そのLINEを見て敢えて田中に話しかける。

 

「田中くんも反論して良いんだよ」

 

「いいえ。僕は別に……」

 

可なり我慢するタイプなのかな。

隼人の方が明らかにいいがかりに近いのに、自分で言わないなら俺が少し援護射撃するか。

このままではグループとしても良くない。

 

 

「本人にその余裕がなかったとしたらどうする?

 隼人も潤から聞いたでしょう。次のプロジェクトの第一候補が田中くんだと。

 俺達のプロジェクトに入ると言うのがどういう事か、隼人も経験があるからわかるでしょう」

 

「マネージャーと揉めていた時期?」

 

「マネージャーと揉めると言う事は、会社側と揉めると言う事と同じだからね。

 相方がやめてから仕事も減っていたよね。もしかして辞める事も考えていた?」

 

「え?」

 

隼人が驚いて田中を見る。

 

まだ躊躇している田中に菊池が促す。

 

「樹、ここでは何を言っても大丈夫だよ。大野さんには隠し事はしなくて良いよ」

 

「歌が好きだから辞めたくはなかったですけど、もう限界かなと思っていました。

 そんな時期での隼人の事件で、正直、自分に余裕がなかったのは本当です。

 でも今思うと、LINEの1本くらい出来ないことはなかった」

 

「それは結果論。潤から3人でグループを組むと聞かされて即OKしたのは本当でしょう」

 

「本当です。単純に歌手を辞めたくなかったというのもありますけど、

 隼人と一緒にやれるのが嬉しかったです」

 

「俺は迷ってたんだよ。頻繁に連絡をくれていた風磨くんはともかく、

 一度も連絡のない樹と組んでもやっていかれるのか心配だったから」

 

「だから電話をくれたんでしょう?」

 

「暫く連絡はなくても元々の性格は知っているから、

 松本さんに頼まれたら嫌とは言えないだろうと思ったから本心を聞きたかった」

 

その電話で田中の事を信じたのだから、隼人も芯から疑ってはいなかったのだろう。

ただずっと謹慎処分で誰にも会えない時期が続いたから寂しかったのもあるのだろう。

 

「本当は連絡できないのは頭の中ではわかっていた。大野さんから和馬さんの時の事を

 聞いていたから……。だけど本心を確かめたかっただけなんだ。ゴメンね、樹」

 

「ううん。話が出来て良かった。ありがとうございました」

 

俺に頭を下げてくれる。

 

田中の事を聞いたら菊池の事も聞きたくなる。

 

「菊池くんには聞きたい事はないの?」

 

「あるある。どうして歌手になろうと思ったの?

 俺の事を気にしてくれていたのはわかるけど、いきなり歌手って抵抗はなかったの?」

 

「それは僕も聞きたい」

 

田中もさっきとは打って変わって明るい表情で乗り出す。

 

 

菊池のその理由に関しては俺は翔くんからだいたいの事は聞いていたけど、

本人の口から改めて聞いてみたい。

 

「僕は元々歌手志望だったんだよ」

 

「え?そんな話は聞いた事ないよ」

 

「そりゃあそうだよ。二人には今初めて話すから」

 

 

「それでどうしてソロでやるようになったの?」

 

「初めての仕事が櫻井さんの番組にゲストで出させて貰って、そこで感触が良かったのか、

 バラエティー系の仕事が来るようになってそのままソロでやるようになりました」

 

「デビューはいくつ?」

 

「18です」

 

「じゃあ10年ちょっと、割にトントンと来た方?」

 

「そうですね。仕事には恵まれた方だとは思います。

 ただバラエティー番組などは家族や親戚に認められづらいんですよね。

 遊んでいるように思われて…。だから大学卒業の時期は可なり悩みました」

 

 

理由は色々だけどみんな一度は考える事だろうな。

このままやって行っても良いものなのか、別の道もあるのではないかと……。

 

「それで結局この道を選んだのはどうして?」

 

「大学卒業の時点で4年ぐらい経ってましたから、仕事もそれなりに順調でしたし、

 中途半端な状態で投げ出したくはなかったと言う事と、やはり櫻井さんの存在ですね。

 僕にとって大きな目標でしたから」

 

今度は菊池と俺が専ら喋って、二人は聞き役だ。

 

菊池は隼人と同じ年だけど明らかに彼の方が大人だ。

自分ではトントン拍子に来たと言っているけど、そればかりではないのは俺も知っている。

でも自分では苦労したとは思っていないかもしれない。

もっと苦労している人をたくさん見てきているからだろう。

 

 

「それで今更、歌手にと言われて抵抗はなかったの」

 

隼人が漸く口を挟んできた。

 

「今だから言うけど、めちゃめちゃ悩んだし考えたよ。

 歌の経験もユニットの経験もないし、そんな俺に出来るのかって」

 

「だったらどうして?」

 

「松本さんから樹の加入が決まったと聞かされて、この3人で出来るのなら

 やってみたいと思いました。歌手になるのは夢でしたから今は凄く楽しみです」

 

多分、翔くんの助言もあるのだろうなと思いながら聞いていた。